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細かい模様の薄い銅板のカードを作り上げ、青葉は仮眠を取った。あと数時間で真雪か天道がやってきて起こすに違いないが、とりあえず寝る。表面を磨くのはそのときでいいやとまぶたを閉じた。
次の瞬間、頭にクラッシュアイス入りのコーヒーをぶちまけられて、飛び起きた。
ヒャッハッハッハと天道が笑っていて、青葉は頭を振った。コーヒーが飛び散る。机に置いたスマホを見ると九時過ぎで、一瞬だった気がしたがとりあえず三時間ほどは眠った計算になる。
「朝飯」
髭にサングラスといういかにも怪しい職業ですという顔の天道が、机の上にコンビニで買ったらしいパンを置いた。その横に半分ほどなくなったアイスコーヒーを置く。それから自分も脇にある椅子に座って、サンドイッチのパックを開いた。
「普通に起こせないのかよ」
青葉は作業用のタオルで頭を拭いた。ちょっとオイル臭いが他のタオルも似たようなものなので仕方ない。
「贅沢言うな。一番早い方法だろうが」
天道は全く気にせずサンドイッチを食べる。
青葉も息をついてあんパンの袋を開いた。
天道が手を伸ばし、無言で銅板をつまむ。そこに刻まれた模様を角度を変えながらじっと見て、それからつまらないものを拾ったというように、ポイと机に戻した。
「おまえはホントに器用だな。見本がありゃ、何でも作れる」
天道は呆れるように言って、自分用に買ったホットコーヒーを飲んだ。
「ちゃんとした道具があればね」
青葉は銅板を取って、革布で表面を拭いた。
「そうだな、アレは材料が悪かった」
天道はガハハと笑う。口がでかいので、青葉は子供の頃は彼に食われるかもしれないと怯えたものだ。ヤクザな風体に似合わず、歯並びがきれいで真っ白く輝く。芸能人とかモデルみたいだ。
青葉は黙って銅板を磨き続ける。
「今度はいい和紙とインクと、印刷機を用意してやるよ。おまえは原版だけ作ってくれりゃいい」
天道は気楽に言う。偽造紙幣作りがどれだけ大変なのか、天道はわかってない。二、三日でちょちょいとできるとでも思っているらしい。
青葉は小さく舌打ちをした。一週間たってもできないでいると怒鳴られ、試し刷りをするととんでもない粗悪品ができ、使えねぇだろうがと怒鳴られ、紙も道具も悪いと言ったら殴られた。天道の仲間なのか、上下関係があるのかわからないが、天道ぐらい怖い顔の奴らがやってきて、いわゆるドスってやつを青葉の首に突きつけ、いつになったらできるんだと問い詰めた。青葉は失禁しそうになったぐらいだ。
あれは悪夢みたいな一日だった。最低で最悪で思い出したくもない。
青葉は雑念を払いのけるために銅板を磨く。
「これができるんなら、コイン作った方が早いんじゃねぇか?」
天道が言い、青葉は息をついた。またあんな作業させられてはたまらない。
「今どき、金の偽造とかじゃないんじゃねぇの? 全部仮想通貨でいけんじゃん」
「お、おまえ、頭いいな。さすが境の息子。あいつもずる賢さだけはピカイチだった。懐かしいな。おまえ、ハッキングの勉強しろ」
「もう出ないと。車まわす。立ち会うんだろ?」
「いや。おまえが監視しとけ。金はオンラインで振り込ませろ」
青葉はあくびをする天道を見て、ため息をついた。
「わかった。じゃぁ行ってくる」
「あ、そうだおまえ」
天道が言うので振り返る。
「帰りにゴム買ってこい。昨日、切らしちまってよ」
青葉はニヤリと笑う天道を見た。天道は青葉の顔に指を向ける。
「いつものな。間違えるなよ。この前、臭いの買ってきただろ。俺はムスクって決めてんだからよ」
「金は。前の分ももらってない」
「うるせぇな。前のは間違えただろうが。金なんか払うか」
「でも使ったんだろ」
「口答えすんな、とっとと行け、ガキが」
天道がそこら辺にある工具や鉄くずを投げてきて、青葉は急いで逃げた。
いつか天道が父を殺した証拠を見つけたら、絶対に通報してやると青葉は今日も誓った。
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