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今回はその街で一番有名な会社の、新社屋のデザインのどれがいいかとか、社長室をどこに置くといいとか、そういうでっかい風水っぽいことを占う仕事だった。青葉も真雪もそこに行くまで、その会社は知らなかったが、駅前にもでっかい看板があり、ショッピングモールやバス、学校まで持っている一大企業だった。
会社が出している饅頭を土産にもらい、青葉はそれを食べながら真雪がそこの社長とだだっ広い予定地を歩いているのを眺めた。社長が運転手つきで乗ってきたでかいピカピカの車の横にあると、さらにみすぼらしく見える白いカローラにもたれ、青葉は空を仰いだ。天気はいい。
社長が熱心に真雪に社屋の説明をしていて、その脇に秘書っぽい男と、建築事務所のスタッフが二人。真雪は商売道具の鈴をシャンシャンと振って、何かの位置を示したり、タブレットと土地を見比べて何かアドバイスしたりしているみたいだった。
銅の板をいつ使うのか青葉にはわからなったが、三十分ほどして戻ってきた真雪は、それを社長に渡してきたと言っていた。完成までのお守りみたいな感じで渡しているらしい。
この前渡した相手は、新しいアトリエだか何だかを作るアーティストだったが、それを持っている間、アトリエの設計に次々にアイデアが湧き、しかもスポンサーまでついて望み通りのものが手に入ったと大喜びだったそうだ。
別に青葉が作った銅板に神が宿ったとは思わないが、真雪が祈りを込めました、とまっすぐな目で言って渡してくれたら、きっと青葉でもそこに意味を感じてしまうに違いない。
占いってのは気のもので、相手が気分良くなりゃ、金を払ってくれる。真雪はそういうのをうまい感じで乗せちゃう力を持ってて、その説得力アップに自分の道具が使われてるんなら、それはそれで意味があると青葉も思う。
支払いは秘書が電子送金してくれた。
青葉は画面のスクリーンショットを押さえ、それから事務所でエロい動画配信でも見てる天道に電話した。口座を確認しろと言うと、天道は金のことはマメにやるので、すぐに確認した。それで業務完了ってことになる。
「良かったら昼食を食べていかないか?」
真雪を気に入ったらしい社長が言い、真雪は青葉を見た。青葉は肩をすくめる。
「あまり知られてないが、この辺の牛は肉質が良くて人気なんだ。国内よりも海外に売れてて、本当は手に入りにくいんだが、行きつけのすき焼き屋があってね」
ちょっと強引そうなワンマン社長は、もう立派な白髪のくせにウインクしてみせた。スーツもスタイリッシュだし、ネクタイも若いブランドで、靴も攻撃的な形をしている。だからウインクが似合う。
断ったら面倒だなと青葉は思った。こういう自信家は、褒めて褒めて褒めちぎるのが一番いい。第一、高級牛肉は青葉も食べたい。
「いいですね、そんなの聞くと帰れないです」
青葉が答えると、社長は嬉しそうに車に乗り込んだ。
真雪も「やった」とカローラの助手席に乗り込み、青葉は飯の代わりに他の用事を押し付けられるとかじゃないといいなと思った。
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