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 朝になってから気づいたのだが、それから数時間後には境青葉からショートメールが送られてきていた。項目だけの箇条書きメールだ。 『発注元:棚岡製函 山田(男) 特殊薬品使用後の清掃依頼。依頼書、工程表、作業報告有り』  そう書いてある後に、依頼書と工程表、作業完了後の簡易報告書が添付してあった。報告書には使用した薬品も記載してあり、漂白剤やワックスが記録されていた。これは境青葉が行ったと言った作業内容とも合致している。  月浦はそれらを隅々まで見て、清掃会社のヒントになるものがないかと思ったが、会社名が書いてある部分はどこにもなく、何も掴めなかった。  棚岡製函は工場の会社名だった。山田というスタッフはいないはずで、依頼者の本名は不明となった。  これについて詳しい内容を確かめようと、月浦は青葉からの連絡を待った。調べ物をしたり、現場近くでの聞き込みをしていると時間はあっという間に過ぎ、気づくと昼を過ぎていた。  月浦は境青葉が逃げたとは思わなかったが、自分から電話をかけてみた。  しばらくコールを待ってみたが、青葉は出なかった。  月浦は不審に思い、一時間後にかけても出なかったら手配しようと思った。  乳児殺害が宗教儀式によるものだとしたら、これはセンセーショナルな事件として報じられることが明らかだった。だからこそ簡単に公表できない面もあり、月浦は絶対にそうだという証拠を見つけるように上に指示された。上層部としても、その新しい見解には強い関心を見せ、ようやく人員が増やされようとしていた。  そうなると大峰真雪を事件から無関係にしておきたいという境青葉の希望は、もう聞いていられなくなる。  月浦は何度も青葉に連絡を入れ、ようやくつながったときにはホッとした。 「悪い、刑事さん、俺、自分でもどこにいるかわかんなくて」  境青葉は特に焦ってもいない雰囲気で言った。 「それはこっちで追跡するからいいけど、電源は切らないでね。状況は?」 「清掃業者の情報は見ました?」 「ええ、偽名で依頼が入っていたってことはわかった」 「その、依頼人と接触させてやるって話がついたんですよ」 「え? それで?」  月浦は身を乗り出しそうになりながら聞いた。 「今日の夜、九時にピークポートで。知ってます? ピークポート。西港の三番突堤だったかな、その辺にあるバーです」 「わかった。何か目印は?」 「向こうは俺をRingの営業だと思ってて、顔は知ってるそうです」 「じゃぁ、あなたが行かないといけないってこと? で、今どういう状況?」 「ええと……情報もらうために、ちょっとヤバいとこまで突っ込んだら、別のトラブル拾っちゃって、拉致られそうになったんですけど何とか逃げて。山で、ちょっとしばらく携帯つながんなくて」 「別のトラブル?」 「いや……また詳しいことは後で」 「道はわかるの? 遭難するからその場にいなさい。電波拾うから」 「あ、でも向こうも追っかけてると思うんで。また落ち着いたら電話します」  そう言って青葉は電話を切った。 「ちょっと!」  月浦は抗議したが、それは届かなかったようだ。  とにかく境青葉の携帯電話を追跡してみると、確かにやっと電波の届く範囲に入ったようだった。隣県の山中にいるようだ。  一体何があって。  月浦は苛立ちながらも青葉捜索の手配と、同時にピークポートの件も調べ始めた。
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