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 真雪は青葉を受け止めると、ボスの車に運んだ。青葉は特に痛めつけられた雰囲気はなかった。逃げるときに山道で転んだり、引きずられたりして無数の擦り傷や打撲を作っただけのようだ。 「何やってんだ、クソガキが」  ボスが戻ってきてハンドルを握り、真雪は青葉にペットボトルの水を渡した。  青葉は口にも土がついていたので、腕で拭い、水を少し飲んだ。それでようやく話ができるようになったみたいだった。 「……がと」  青葉は腕や足にいくつか食い込んだ小枝を取り、血が出ている箇所を水で湿らせた。雑巾代わりの古タオルで水を受け、軽く手と顔も拭いた。 「誰だ、あいつら」  ボスが聞いたが、青葉は首を振った。 「知らない奴ら。いきなり声かけてきて逃げたら捕まった」 「捕まるなよ」  ボスは呆れて言う。 「酔ってたから、ちゃんと走れなかった」 「名前、バレてたのか?」 「ん……バレてた」  青葉が言い、真雪は小さく息をついた。やっぱり昨日の夜、嫌な予感がしたときに青葉を探しに行けばよかった。どんどん不安が大きくなって、これは絶対に青葉が危ないと思ったのは朝になってからだった。 「おまえ、地下カジノに行っただろ」  ボスがそう言ってルームミラーで後部座席にいる青葉を睨んだ。 「別に自分で好き好んで行ったわけじゃねぇよ。あのオバさんがさ、ネタの見返りに付き合えって言って……」 「断れよ」 「ネタがほしかったんだよ。あんたは調べてくれないし、俺じゃ限界あったし」 「殺すぞ、ガキ」  ボスが言い、青葉は黙った。  真雪は二人が何を言っているのかよくわからなかったが、ボスが苛立っているのはわかった。さっきまで、放っておけば帰ってくるだろと探しに行くのを渋っていた人とは思えない。 「真雪」  青葉が声をかけて、真雪は我に返った。 「何?」 「未来研究会を、本気で復活させようとしてる奴らがいる。そいつらはイカれてて、本気で赤ちゃんを誘拐して殺すとこまでいってる。説得なんかできる相手だとは思えない」 「誘拐……? どういうこと? 何かわかったの?」 「警察がそれを調べてる」 「警察にネタ流してんのか?」  ボスが割って入る。 「それで真雪を守れると思ったんだ」  ボスが舌打ちをして、真雪はもし運転中でなかったら青葉は殴られていたんだろうなと思った。車がある程度安全なところまで走ったら、きっとボスは青葉を車から引きずり出して殴りつけるだろう。それは防がなければ。 「ボス、大丈夫。マズい方向にいかないようにするから」  真雪が言うと、ボスはまた軽く舌打ちをした。あまり効いてない。 「真雪、前に俺が作った鈴は力が乗せやすいって言ってたよな?」 「うん」  鈴が関係してるんだろうか。真雪は戸惑いながらも答えた。青葉は疲れた表情は見せているが、何か必死に考えている感じがした。真雪はルームミラーで睨むボスの目を見た。  パズルがかちりと合う。 「俺には先を見通す力も、空気を浄化する力もないけど、なんかツキを呼び込む力はあんのかもしんない」  真雪はじっと青葉を見つめた。 「そうだね。ツキというか……」 「ちょっと待て。その話は落ち着いてからにしろ。あと三十分もすれば山を抜けるから、二人共、それまで口を開くな」  ボスが言い、真雪と青葉は口を閉じた。  青葉は目も閉じ、少し眠ったようだった。  真雪は窓の外を見た。ボスの苛立ちが伝わってくる。でも何に苛立っているのかまではわからない。青葉が気づいたこと? それとも青葉がもうボスの手の中に収まってくれないかもしれないこと? でもね、ボス。青葉はボスのこと、今も信頼してる。どんな理由であれ、守ってくれたのは事実なんだし。  青葉は自分では自分を守れない。そういう厄介なところをボスは引き受けてくれたんだもの。  大丈夫。まだつながってる。
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