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 小さな公園沿いの銀杏並木は、その下に黄色い絨毯を作っていて、真雪はスニーカーで風で集まった葉の上を歩いた。これ以上ないぐらいきれいな黄色が重なり、ちょっと葉っぱを蹴っ飛ばしてみる。ふわっと扇形の葉が広がり、真雪は微笑みを浮かべた。  もっと遊んでいたかったが、そういうわけにもいかないので、公園脇の路地を入り、もうすっかり寂れてアーケードも骨組みだけになってしまっている細い商店街に入る。かつては賑わっていたらしいが、今ではもうその面影もない。壊れかけた建物がいくつか並んでいて、歯抜けになった空き地はフェンスで囲ってあるが雑草が真雪の背丈ほどに伸びていた。  商店街の中でも数件はまだ営業していて、その多くはアルコールか合法ドラッグを扱っている。今は昼間なので閉まっているが、夜になると治安はぐっと悪くなる。  だから家賃は安いんだよね。  真雪はシャッターが完全に閉まっている店の通用口から中に入った。もともとは小さなスーパーだったようで、惣菜加工場や冷凍倉庫なんかがある。事務室だったところを覗いてみると、青葉がソファで寝ていた。 「おーい、起きろぉ」  真雪がその辺にあった鉄パイプを二本持って打ち鳴らすと、青葉は飛び起きた。  不機嫌を絵に描いたみたいな顔で、青葉は真雪を睨む。 「おまえ、それが大切なパートナーに対する態度か」 「ボスは?」  真雪は構わず辺りを見た。髭面のおじさんは留守のようだ。  青葉も真雪の質問を無視して、床に落ちていたペットボトルから水を飲んだ。眉間には深いシワが刻まれたままで、きっと青葉はしかめ面がデフォルトの年寄りになるに違いないと真雪は思う。 「鈴はできた?」  できたから寝てたんだろうけど。  真雪は青葉がむすっと立ち上がるのを見て、彼について事務室を出た。  廊下の向かいにある加工場が、工房になっている。正確には倉庫も元売り場の広い空間も工房なのだが、青葉が一番よく使うのはこの元惣菜加工場の工房だった。 「これでどう?」  青葉がトレイを持ってきて、真雪はその真鍮の鈴に息を飲んだ。鳴らさなくてもわかる。きっとこれは完璧に希望通りのもの。直径二センチほどの鈴は注文通りに三つできていた。  真雪は指でその鈴を一つつまみ、耳のそばで鳴らしてみた。チリンと金属が鳴り、真雪は目を閉じてその余韻を楽しんだ。残り二つも調べてみるが、どれも充分な音をしていた。 「青葉、天才」  目を開いて隣にいる青葉に言うと、青葉はそれが悪口にでも聞こえているかのようにムスッとしている。いつもそうだ。だから真雪も気にしない。 「じゃぁこれで完成させるから、ちょっと待ってろ」  青葉が言い、真雪はうなずいた。
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