Ⅱ 初めの罪

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 とはいえ、このまま俺も黙ってデラマンの計画に利用されるわけにはいかねえ……。 「親父、俺の話も聞いてくれ! やったのは俺だけじゃねえ!」 「父上! 聞いてはなりません。嘘で父上を惑わすつもりです! 兄は槍の名手! 妙なことを考える前に引っ捕らえい!」  が、デラマンは余計なこと言われぬ前にと大声をかぶせ、兵達に即刻の捕縛を命じる。 「チッ…野郎……」  俺は肩に担いでいた短槍を構えると、人でなしな弟を睨みつける。 「パウロス、無駄な抵抗はよせ! 皆の者、早く槍を取り上げて捕らえるのじゃ!」  だが、加えて親父までがすっかりデラマンの嘘を信じ、ヤツに詰め寄ろうとした俺に兵をけしかける。  「チッ……言うだけ無駄か……」  ま、俺もボッコス殺害の片棒を担いでることだし、完全に濡れ衣ってわけでもねえ……言い訳はできねえだろう。  それに、デラマンはぶっ殺してやりてえが、騙されてる親父はヤツの味方だ。さすがに親父まで殺すわけにゃあいかねえだろう……。 「デラマン、憶えてやがれ! 親父、一つ忠告しといてやる! あんまデラマンを信じねえ方が身のためだぜ。じゃあなっ!」  「うわっ…!」  やむなく負け犬のチンピラの如く捨て台詞を吐くと、俺は短槍の柄の端を持って大きく振り回し、怯んだ兵達の囲いを突破して城門の方へと向かう。  俺にとっちゃあ一心同体のようなもんなんで、常日頃、飯の時でさえ短槍を持ち歩いていたのが幸いした。 「に、逃すなぁーっ! 追えーっ!」 「ハン! てめえら、どうしても痛え目みねえと気がすまねえようだな!」  そして、命まではとらねえものの、追いすがる兵達は容赦なく槍で叩きのめし、城門を出た俺はそのまま故郷のエヘーニャを出奔した──。
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