Ⅰ 知らされる罪

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「罪人のパウロス・デ・エヘーニャは異母弟ボッコスを殺害した後、匿ってくれた恩人のドン・エンリケオ・デ・プティーヌも狩猟のどさくさに紛れて惨殺。さらに身を寄せたドン・アガトゥスの妻に言い寄り、アガトゥスを亡き者にした後、ディミニオン領を簒奪しようと画策したとある……エヘーニャのパウロスというと、あの〝短槍使い〟のパウロスか?」 「おそらくは。私も戦場でその名を聞いたことがあります。槍投げの腕もかなりのものだとか……」  紙面に記された罪状を読み上げ、思い出したかのように呟くハーソンにアウグストも頷く。 「短槍使いか……罪人として始末するには惜しい人材だな……」 「ま、まさか、このパウロスを羊角騎士団に入れるつもりではありますまいな? 二件の殺人を犯した上に恩人の領地簒奪を狙った大罪人ですぞ!?」  わずかに押し黙った後、ハーソンがポツリと口にした一言にアウグストは俄に慌て出す。 「その二件、殺されたのは領地の継承権を持つ子息や先代の領主だ。どうも家督争いの臭いがしないか? それにディミニオンの一件も領地絡みだしな……どうにもきな臭い。意外と大罪人じゃないかもしれないぞ?」 「いや、それにしてもそんな犯罪者を入団させるというのは……さすがに方々から横槍を入れられますぞ?」  対して愉しげに口元を歪めながら反論するハーソンに、アウグストは太い眉毛を「ハ」の字にして、あからさまに困惑の表情を見せた。  彼らが先程から言っているのは、羊角騎士団の新規団員スカウトの話である。  白金の羊角騎士団──もともとそれは、プロフェシア教を異教や異端から護る護教のために組織された宗教騎士団である。  ところが年月が経つにつれ、この歴史と伝統ある騎士団は王侯貴族の子弟が箔付けをするための道具に利用され、結果、なんら実働能力のない、有名無実化した名誉団体に成り下がってしまっていた……。  そんな中、無用の長物と化した騎士団の改革に着手したのが、新たに即位したエルドラニア王カルロマグノ一世である。  昨今、〝新天地〟に築いた植民地より上がってくる富はエルドラニアの経済を支える根幹となっているが、その物資を運ぶ航路で暴れ回る海賊達が国王カルロマグノの大きな悩みの種だ……そこで、王直属の羊角騎士団を強力な部隊に再編成し、この海賊討伐に当てようと彼は考えたのである。
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