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Ⅱ 初めの罪
「──ハァ……ハァ……」
俺は、重くボロ布のようになった身体を引きずりながら、暗くじめじめとした森の中を彷徨っていた……。
ここはもうテッサリオ領だろうか? それともイオルコ領か? ……まあ、どっちでもいい。他人の領地だろうがなんだろうが、ヤツらに容赦する気はさらさらなさそうだデ。
俺の槍の腕なら追手を返り討ちにしてやる自信は充分にあったが、その予測は大幅に外れた……騎馬で追って来たヤツらは、異常なほどに強かった。
俺の投槍を難なく回避してくれるし、人馬一体となって馬までが攻撃を仕掛けてきやがる。あんな騎兵は戦場でも見たことがねえ……なんらかの魔術を使ってるとしか思えねえ強さだ。
で、情けなくもボコボコにされた挙句、命からがら森の中へ逃げ込んだというわけだ。
あれから、どのくれえの時が過ぎたんだろうか?
名人ダイダロウの作った自慢の短槍の柄を杖代わりにして、もう何日も行く当てのない森での彷徨を続けている…… 衣服は血と汗と泥塗れだし、いつもは引っ詰めて後で縛っている長髪も今やボサボサだ……。
短槍の使い手として、戦場ではちったあ知られたこのドン・パウロス・デ・エヘーニャさまが、まあ、なんとも情けねえ末路じゃねえか。
……ま、もとはといやあ、身から出た錆ではあるんだがな。
そもそもの発端は、なんとも優れた異母弟に俺が嫉妬したことにある──。
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