Ⅱ 初めの罪

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「──兄貴、このままじゃボッコスが家督を継いじまうぜ? それでいいのかよ?」  なにかと頭の切れる実弟のデラマンが、人気(ひとけ)のねえ実家の城の屋上で、そう言って苛立つ俺をけしかけた。 「父上も気に入ってるし、地位も領地も財産も、あいつとあいつの母親がすべて持ってっちまう。俺達兄弟は一文なしで家から追放だ」  そんなデラマン同様、確かに俺も自身の先行きには言い知れぬ不安を抱えていた。  俺達の親父、ドン・アイコス・デ・エヘーニャは、狭いながらも国王より領地をいただいているエルドラニアの下級貴族だ。  で、俺とデラマンは亡き先妻エンディーネとの間に生まれた息子だったが、ボッコスは親父が再婚した継母プサマティアの息子──つまりは異母弟だった。  いけすかねえが、母親がすこぶる美人だったためだろう。生まれつき人相の悪ぃ俺達兄弟とは違い、ボッコスは美しい黒髪に褐色の肌を持つ、いかにもなラテン系の優男に成長した。  いや、容姿だけじゃなく、ヤツは武芸や競技にも優れ、なおかつ学問も好む、非の打ち所のねえクソムカつく野郎だった。  故に親父もヤツを溺愛し、先妻の子である俺達兄弟は遠ざけられた。継母の意向もあるだろうし、家臣や領民達からの人望も厚い。デラマンのいうように家督をボッコスに継がせようと考えていたとしてもおかしくはねえ……いや、本人にしてもそう思っていたかもしれねえ……。 「ここはもう、()るしかねえ……じゃなきゃ逆に邪魔な俺達が殺られるぜ?」 「ああ、そうだな。先手必勝か……だが、アイツは意外と用心深え上に腕も立つ。そう簡単にはいかねえぜ? ま、俺には敵わねえだろうがな」  一番簡単にして最後の解決策を口にする弟デラマンに、俺も躊躇いなく頷くと、ちょっと対抗心を燃やしながらその計画の問題点を指摘する。 「俺に考えがある。ヤツを油断させて人目につかない所へ誘いだそう。なあに、あとは兄貴の槍の腕さえありゃあ、朝飯前の簡単な仕事だ」  すると、デラマンは邪な笑みをその顔に浮かべ、俺を持ち上げるかのようにしてそう答えた──。
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