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「──俺も領主の息子として、領民達にイイとこ見せたいんでな。恥を忍んでおまえに頼みたい。すまんがちょっと稽古をつけてくれ」
後日、そう言って下手に出たデラマンは、〝円盤投げ〟の教えを請うという名目でボッコスを森の中の開けた場所に呼び出した。
口実としては、「人目につく場所で指導を受けるのはさすがにプライドが許さない」とかいうもっともらしい言い訳だ。
この〝円盤投げ〟──鉄製の重い円盤を投げ、その距離を競うという遊びは古くから地元で行われているもので、嘘か真か、起源は古代イスカンドリア帝国時代にまで遡るとも云われている。
今度の村祭で毎年恒例の円盤投げ大会が行われるのだが、それに出るためにこっそり上手くなっておきたい……と、そうデラマンは嘘をついたってわけだ。
「わかりました。兄さんの頼みなら断るわけにもいきません。喜んでお手伝いいたしましょう」
エヘーニャっ子の御多分に洩れず、ボッコスもこの円盤投げが大好きで、地元では名選手として知られていたため、用心深いヤツもこれには素直に乗ってきた。
ただし、いつもながらに忠誠心厚い従者を一人、連れてくるのは忘れちゃいねえ……。
「──それじゃ、フォームを見たいんでとりあえず投げてみてください」
少し離れた木の影に隠れ、気配を消して俺が見守る中、デラマンとボッコス、それにヤツの従者の三人だけで円盤投げの訓練が始まる。
その場所は鬱蒼とした森の中でもそこだけ樹が茂っておらず、いわば広い草原のようになっている。遠くまで円盤を投げるには格好の広場だ。
「よし。じゃあ、よーく見てもらおうか……俺の円盤投げをなっ!」
「うがっ…!」
だが、デラマンは手にした鉄の円盤を遠くへは放り投げなかった……その代わり、すぐとなりに立つボッコスの顔めがけ、思いっきり投げつけたのである。
「やっぱり、稽古をつけてもらう代わりに違う頼みを聞いてくれるか? ……ここで死んでくれ、ボッコス!」
額に円盤が直撃し、真っ赤な血を流してよろめくボッコスに対し、油断させるために剣を佩いてはいなかったデラマンは、腰のナイフを抜いて勢いよく突進する。
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