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俺は、年末年始特別な用事もないし、初詣に出かけるくらいで、彼女もいなかったので、思い立って東京駅新幹線ホームの、弁当売りのアルバイトでもしようと思った。
一通り研修を終え、念願の新幹線ホームの弁当売り!
ワクワクしながら、お客様を待った。
すると、初めてのお客様だ。
奥さんだったのだが、帰省客でごった返す東京駅には、こういう喧騒の風景が似合ってる。
その主婦の方は、なにを思ったか弁当が欲しかったのだろう。一言、
「すいません。熊・(くま)ください」
と言うので、ある。
熊?????
おいおい、都会のど真ん中、東京駅では「熊」なんて売ってないぞ、と思ったら、
その奥さん、
「能・のう」
という、いかにも日本的な幕の内弁当を買おうとして、「能」を「熊・くま」と、読んじゃったのだろう。
ブッ、と吹き出しそうになったが、お客様に失礼なので、
「我慢、我慢」
と言い聞かせて、
「ありがとうございました」
と、穏便に済ませたよ。
昔、吉幾〇さんが、「銀座で山買うだ~」、とは、唄っていたものの、流石にいくら東京駅でも、「熊」は売ってないだろう。
まあ、ダディベアのぬいぐるみは、売っているかもしれないが。
上野駅じゃ、動物園近いから、熊売ってるのかな・・・
「お持ちかえりです」なんて言って、山手線の優先席に「熊」座っていたら、怖いよな。
などと、アホなこと考えながら、次の客を待った・・・
すると、今度は、若い大学生風のお兄さんが来て、また、幕の内弁当をみてる。
またお買い上げか、と、有り難くオーダーを待っていたら、
「すいません。相模(さがみ)ください」
というのである。
さがみ?????
また、難解な注文が来たので、よく見てみたら「相撲・すもう」という、幕の内弁当が欲しかったのだ。
また、ブッ、と、吹き出しそうになったがお客様に悪いと思い、この方おそらく神奈川県の方だなと思って素直にPOSレジ打って、
「ありがとうございました」
と、商品渡したよ。
しかし、面白いのな。
立て続けにこういうお客さん来るのな。
「商い・あきないは、飽きない」
とは、よく言ったもので、とても楽しい思いさせてもらったよ。
そう、思いながら、今日の営業を次の職員さんに引き継いだ。
かつて啄木が、
「ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにいく」
とは、よくうたったもので、
やはり、ターミナルステーションは一味違う。
本当に楽しい年末年始だった。
「東京駅大爆笑!」
だったな。
いい、人生経験でした。(笑)
Fin
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