伝説の怪盗エックス

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 彼の特徴は物理的な防御や包囲網だけでなく、コンピューターのセキュリティも軽々と打ち破る。怪盗は凄腕のハッカーでもあった。ちなみにこれもパソコン教室からエンジニア養成スクールに通って、あとは自力で腕を上げたらしい。  盗めないものはない。美術品も、宝石も、金持ちの家も、銀行の金庫だって。決して慢心せず、スリルを味わいつつ確実に、そして華麗に。  そんな中エックスに届いた招待状。それは、一流の犯罪者だけが入れる特別なバーからだった。  当たり前だが世間には知られていない。探し歩いても見つからず、どうやって嗅ぎつけるのか一流の犯罪者にだけ招待状が届くと聞いた。そこから招待されるのは、悪党の中では最高の称号と賛辞なのだ。  初めて行った時は最高の気分だった。真の犯罪者とは上品でまったく犯罪者に見えないのだ。上場企業勤務、投資家、社長。様々な人がいてお洒落な雰囲気の中談笑する。上流階級のたしなみのような夢のような場所だ。  初めてなので調子に乗らず、しかも酒が飲めないので一人でいいかとカウンター席に座る。バーテンダーがすぐに来てくれた。 「いらっしゃいませ、怪盗エックス様」 「見てわかるのですか」 「招待状を出したのは私です。店長の霜田と申します」  霜田。確か日本最恐の連続殺人犯、脱獄回数はいまだに抜かれていない。結局三十三回目の脱獄後姿を消したらしいが、まさか彼がこの店を経営していたとは。  その後は彼と話しながら、周囲に霜田を慕う人が集まり優しく受け入れられた。犯罪の自慢話も下品ではない、一流らしい素晴らしい話ばかり。窃盗犯としての先輩もいた。彼らから話や技術を学んでいくうちにどんどんエックスの腕は上がっていた。何かを盗んだ後店に行くと皆エックスの活躍を喜んでくれていた、エックスは嬉しかった。  そんな中、エックスはとある資産家の自宅に盗みに入った。下調べは完璧で楽勝だと思っていたが、その家の幼い息子と鉢合わせてしまった。  夫婦は旅行に行っていたので当然無人だと思っていた。下調べをした時も人の気配などなかったというのに。  しかし実際は育児放棄や家庭崩壊が起きていて小学校低学年の息子に夫婦は見向きもしなくなっていたのだ。栄養失調で痩せ細り愛情が与えられないその子供は痛々しい姿をしていた。  それでも両親を愛し、いつか自分を愛してくれると信じていた息子は言いつけ通りおとなしくしていたと言う。
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