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目の見えない子に夜空の素晴らしさを伝えるために何ができるだろうか。口で説明したって伝わるわけない、視野でとらえる光景と耳で聞く情報は全く違うものだ。
――でも目標ができた、これからもっと頑張ろう。少なくとも俺の活躍を聞いてあの子は喜んでくれていた、怪盗で良かった。
栄養失調だったので入院したと聞いてエックスは変装してその子の見舞いに行った。しかし、ベッドには誰もいなかった。
「あの! 入院したばっかりの男の子、藤島學くん、転院したんですか!?」
嫌な予感がして慌てて近くの看護師に聞くと、看護師は目を伏せる。
「……一昨日亡くなりました。精密検査をしたら脳に巨大な腫瘍があったんです。目が見えなかったのも腫瘍が視神経を圧迫しているからだとわかりました。手術の計画を立て始めた矢先、脳動脈瘤が破裂してそのまま……ご両親が育児放棄と虐待の疑いで取り調べを受けているときの事だったので。一人で亡くなったんです」
エックスはその場に崩れ落ちて泣いた。両親と会う事を奪い、見えない星空を押し付けてすごいだろうと自慢して孤独に死なせてしまった。あんな両親でも彼は両親を愛していて最後一緒にいて欲しかったに違いないのに。
何が一流の怪盗だ、チンピラよりもひどい。彼から一番大切な物を盗んでしまったじゃないか、と嘆く。
すると看護師が優しくエックスの肩を叩いて何かを差し出した。
「容体が悪化する前に學君が手紙を書いてほしいと頼んできたので、私が代筆しました。星を見せてくれた人ってあなたのことですよね」
泣きながら手紙を受け取る。彼の事だから恨みつらみなんて書いてないだろうが、最後に一体何を思ったのか気になった。震える手で手紙を開くと。
「星を見せてくれたおじさんへ。
僕は星を見ることができなかったけど、きっと僕はあの時ホントに星空を独り占めできたんだと思う。
僕は大怪盗だ。みんなのものである星空を、心にしまって僕だけのものにしちゃったんだ。
おじさんはこれからも僕みたいな人を喜ばせてくれる、そんなすごい怪盗でいてね」
静かに、涙が溢れ続ける。代筆してくれた看護師は怪盗エックスだとは気づいていないし、怪盗を例え話に使ったと思ったようだ。
「優しい子は、たとえどんなことがあってもすべてを優しい出来事と捉えるんです。あなたがやった事は學君を確かに救ったんですよ」
「でも」
「真っ暗闇の心に星空が照らされたのです。目の見えなかった學君には、眩しすぎる太陽よりも星空の方が優しい灯火だと思いませんか」
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