伝説の怪盗エックス

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 それからエックスは児童養護施設や小児病棟の子供たちに積極的に会うようになった。俺はすごい怪盗だから何でも盗める。君たちが欲しいものは何だと聞いて回り、その願いを叶え始めた。  みんな金目の物なんて欲しがらなかった。家族に会いたい、きれいな景色が見たい、病気が辛いからいつも笑ってられる楽しい何かが欲しい、施設のみんなで一緒にできる何かアイデアがほしい。  そういったものを手に入れるために奔走した。あの子たちが望むのはいつだって「概念」だ。どこからか盗めるわけではない。知恵を絞って、頑張った。  カラン、と再び溶けた氷のぶつかり合う音がした。薄まる前にカフェオレを一気に飲み干す。 「あなたが今落ち込んでいる理由は少年を救えなかったから、ではないですよね。何かあったのですか」 「そういった行動が認められて知事から表彰された。目立ちたくないから断りたかったけど、子供たちが目をキラキラさせておじさんすごいよって喜んでくれたから、仕方なく表彰に参加した。そしたら」 「そしたら?」 「あのバー、出禁になった」  だばー、と滝のような涙を流してエックスは泣く。バーテンダーはすかさずハンカチを取り出してエックスに差し出した。 「霜田さんと俺にいろいろ教えてくれた先輩たちが、俺はもう犯罪者じゃないって……」  子供のようにエグエグと泣くエックス。鼻水が出てきたのでバーテンダーはすかさずティッシュを差し出す。 「子供たちに夢を与える素晴らしい人だから、もうこんなところに来ちゃダメだって。胸張って生きろよってすごい笑顔でサムズアップしてくれたんだけど。俺、一流の怪盗になるのが夢だったのに。一度は認められたのに」 「悪党ならではのショックですねえ」  グスグス泣く男。おそらくスッピンなのだろう、ゴシゴシとハンカチで拭く顔は意外にもかなり若い、二十代前半だろう。他の犯罪者たちから応援されるわけだ、息子や孫を応援する気持ちだったのかもしれない。バーテンダーは酒をいくつか取り出しながら聞いた。 「では活動やめます?」 「絶対やだ」  即答するエックスにバーテンダーが微笑みながら別の飲み物を作り差し出した。コバルトブルーのキュラソーをベースにアラザンを少し入れてスターフルーツを添える。まるで夜空と星だ。 「アルコール2%程のカクテルです。今考えて作ったので名前はありませんが。たまにはいいでしょう、酔うのも」 「……そうだな。話を聞いてくれてありがとよ」  その酒を飲み干すと、怪盗エックスは支払いをして店を出ていった。  エックスが店を出てすぐ。テーブル席にいた男たちが一斉にテーブルに突っ伏した。 「耐えたぞ俺は! 名乗った時飲み物吹き出しそうになったけど飲み込んだ!」 「ナイスです先輩! 俺も食べてたタンドリーチキン吐き出しそうになりました。でも、いいんですかこのままで」
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