伝説の怪盗エックス

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「あの雰囲気で突撃できるわけねえだろ!? そんな勇者じゃねえよ! お前いけるか!?」 「無理ッス!!」  半分涙目で叫ぶ男と、全力で即答する後輩。そしてその二人の上司である中年の男は静かに酒を飲んでいる。  ”怪盗エックスをいつまでも捕まえられない、警察ってマジ無能だよね”  世間のそんな世知辛い声に、飲まないとやってらんねーぜと飲みに来た刑事課の面子はエックスの話をただ静かに聞いていた。なんてことだ、これは自供と認められる、逮捕できると顔を輝かせていた二人だったが。話を聞いていくうちにだんだん微妙な顔となり、最終的には何も行動が移せなかった。  二人ともチラリと上司を見る。静かに飲んでいた上司はこれまた静かにポツリとつぶやいた。 「勤務時間外だ」 「ですよね、よかった!」 「そうですよね、俺たちは酒を飲みにきたんですから。仕事しに来たわけじゃないし!」  ほっとした様子で盛り上がると上司が支払いをしようとする。しかしバーテンダーは小さく首を振った。 「お支払いはいただいております。こちらのお客様から」  そう言うと小さなカードを手渡す。それは怪盗エックスの予告状に使われるメッセージカードだった。 『明日の午後9時、✕✕美術館の期間限定公開の富士山の絵を盗むって予告出しちゃってたけど、たぶん二日酔いだから明後日まで待って 怪盗エックス』 「……」  カードを見たまま固まる上司に部下の二人はそのカードを覗き込み一瞬沈黙するが。 「ばれてんじゃねえか、格好悪ィ! クソがああ! なあああにさりげなくバーでやったら一番カッコイイ事やってんだ!」 「しかも犯行予告もしっかりと! なんスかこいつ、イケメンですか!?」 「オレらをメロメロにしようったってそうはいかねえぞ! つーか良い奴すぎんだろ何で怪盗なんだよ!」 「逮捕して出所したらNPOに就職させましょう!」  ギャイギャイと騒ぎ立てる。完全にただの酔っ払いだ。上司はカードを内ポケットにしまうと部下二人を連れて店から出て行った。その目は、子供のように爛々としている。  その様子をバーテンダーは小さく笑いながら見送る。そしてドアにCLOSEの札をかけると親友であるバーテンダーに電話をかけた。 「もしもし。エックスさん、また店に入れてあげなよ。間違いなく凄い怪盗だから」 「本当か。かつて盗めない物はないと言われた伝説の怪盗のお前が言うとは」 「彼は俺には盗めなかったものを盗んだよ。警察から子供たちからマスコミ、数多くの人の心は俺も盗めたけど。一人の男の子の心は、星空ごと永遠に彼のものだ。誰にも盗めない。世紀の大怪盗だと思わないか」 「はは、そうか、そりゃたしかに。凄い怪盗だ」 END
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