4人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
大和の百襲姫は七歳の頃、初めて『馬』を見た。
胡服の群れが連れた獣。それは、立派な大樹から生まれたように美しいものだった。
慈愛に満ちた瞳。品のある曲線を描く四肢。可愛らしい頤。柔らかな尻尾。なによりも、蹄の音が心地良いこと。素敵な楽人が木鼓を打つよう。
「なんて、かわいい子たち。早く、この子たちのためのお庭が欲しいわ。広くて豊かなお庭がほしい」
草香津を見渡す櫓の上で、百襲姫は独り言ちる。
巨躯の官、布津に抱かれ、阿宜らが早駆けに出かけるさまを見つめていた。茶色い背中が、黄金色の陽に照らされながら遠ざかっていく。
その様に、百襲姫は胸元を押さえた。内側では熱い鼓動が脈打っている。しょっぱい潮風に吹かれる鬣を瞼の裏に描き、深く深く息を吐いた。
「約束はちゃんと遂げてね、阿宜。中つ国を、出雲を平け、あの子たちの庭を得るのよ」
彼女は白い歯を見せ、西の空に薄ら嗤う。その面持ちは、あたかも鹿を狙う狼であった。
最初のコメントを投稿しよう!