大和 馬飼と暴君姫

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 大和(やまと)百襲(ももそ)(ひめ)は七歳の頃、初めて『馬』を見た。  胡服の群れが連れた獣。それは、立派な大樹から生まれたように美しいものだった。  慈愛に満ちた瞳。品のある曲線を描く四肢。可愛らしい(おとがい)。柔らかな尻尾。なによりも、蹄の音が心地良いこと。素敵な楽人(がくと)が木鼓を打つよう。 「なんて、かわいい子たち。早く、この子たちのためのお庭が欲しいわ。広くて豊かなお庭がほしい」  草香(くさかの)()を見渡す(やぐら)の上で、百襲姫は独り言ちる。  巨躯の(つかさ)布津(ふつ)に抱かれ、()()らが早駆けに出かけるさまを見つめていた。茶色い背中が、黄金色の陽に照らされながら遠ざかっていく。  その様に、百襲姫は胸元を押さえた。内側では熱い鼓動が脈打っている。しょっぱい潮風に吹かれる(たてがみ)を瞼の裏に描き、深く深く息を吐いた。 「約束はちゃんと遂げてね、阿宜。中つ国を、出雲(いずも)(ことむ)け、あの子たちの庭を得るのよ」  彼女は白い歯を見せ、西の空に薄ら嗤う。その面持ちは、あたかも鹿を狙う狼であった。
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