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丁度馬飼らがやってきた春頃。
彼女は阿宜率いる騎兵隊と、稲生率いる歩兵隊を率いて出雲へ攻め入った。あらかじめ整えられた路は星の如く大和軍を出雲へ導いた。
げに恐ろしきは馬の力と、百襲姫の執念である。
大和軍は瞬く間に中つ国の都、出雲を制圧した。
あまりの呆気なさに、阿宜らは拍子抜けの体であった。
国長の大国主、官の宿儺は宮の前に並ぶ百を超える首に、背筋を凍らせる。
無論、何れも中つ国の兵である。重く湿った鉄の臭いに、近衛すら顔面蒼白となっていた。
一方弓張月の下、五十狭狭小汀にて、一人の大男が地に伏せた。
彼、大国主の次男南刀は身体中から血を流し、息も絶え絶えに這い蹲る。中つ国の民草を守るべく臨んだ一騎打ちだが、稲生という怪力乱神を前にしては為す術もなし。
百襲姫は平伏す彼を見下し、稲生を背から抱き締めた。武人にしては小柄な身に、雷の如き闘気がある。
女武人の稲生は布津の腹違いの妹で、百襲姫の親友である。
彼女を女子供を侮った南刀に、百襲姫は容赦しなかった。柳のような手が、稲生が佩く十束剣の一本を抜く。そしてこれを振り上げ、南刀の右腕を叩き切ろうとした。
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