大和 馬飼と暴君姫

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 その晩、阿巳は百襲姫が休む宮へと訪れた。  夜の番に勤める布津は何用かと問うた。彼は姫と話したいと正直に話すと、稲生がいる場を選ぶよう助言する。  阿巳はこれに従い、稲生と共に褥へ訪うた。  簾の隙間から、鈍い光が漏れている。稲生の丸い横顔を、油皿に乗る燈火が照らしている。彼女が一声かけると、すぐに許しが下る。開いた帳の先で、姫は天鵞絨(びろうど)葉巻(はまき)を愛でていた。 「蜈蚣が効いたようで、喜ばしいわ」  姫の温顔が阿巳に向けられる。はじめから訪われるとこなど知っていたとばかりに、彼女の笑顔には艶があった。 「何度も噛まれれば、嫌でも治ります」 「荒療治ってやつね。もう外しても問題なさそう」  襟から出てきた蜈蚣に、稲生が身震いした。百襲姫は可笑し気に笑い、天鵞絨(びろうど)葉巻(はまき)を剣に乗せた。いかにも重々しい両刃剣は、大国主から得た天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)である。  中つ国一番の宝たるそれは、大国主の父祖が八岐大蛇を討った際に体内から取り出したとされる神器。その格は稲生が持つ十束剣に勝るとも劣らない。
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