大和 馬飼と暴君姫

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「私はやはり貴方の残忍さを好きになれない」  稲生は彼を宥めることなく見守りながら、小さく嘆息した。一方百襲姫は彼に構うことなく、稲生の首筋を甘噛みしている。 「ですが、私は貴女を侮っていた。父上すら怖気づいていた中つ国制圧を見事に果たしただけでなく、臆病な私を変えてくれた。私の負けだ」  阿巳は百襲の手を取り、熱い接吻をした。  彼女は驚いたように目を丸くしたが、やがてその相好が崩れた。漸く稲生から離れた姫は、その巨体を引き寄せて、頬を寄せあった。 「そうでしょう?だってわたし、強いもの。強くて美しいわたしには何人たりとも逆らえないの」  無垢な笑顔を湛えながら、頬を撫でる。 「父上は先払いとして神獣鏡をお渡ししました。しかし男妾よりも、これからの馬飼らを支えていただきたく存じます。私はそれで十分ですので」  阿宜が献上した神獣鏡は、魏王より譲られた一族の宝。その価値は推して知るべしである。 「そうね。庭も得たことだし、ちゃんと応えなきゃね」  手が首を、背を撫でる。細い腕が広い背に回り、褥まで引きずり込んでいく。  互いの布が擦れる音に、蛾達が一斉に舞い上がる。稲生は黙って簾を下ろし、素早く(つぼね)から去っていった。
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