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春の半ば、二十人の馬飼らが百済から渡来した。彼らは扶余族と名乗り、曰く南の高句麗との戦によって商が脅かされ、一縷の望みを賭けて若狭に錨を下ろし、天の導くままやってきたという。
馬飼の長は阿宜といい、長らしく精悍な顔つきと岩のような肉体を持ち、腰には異国の両刃剣を佩いていた。
百済の商人は僅かながら見たことはあったが、これほどの益荒男は初めて出会った。
また彼の妻も鋭い眼と鋼の肉体を持っており、まるで戦うために生まれてきたかのようだ。恐らく百済の中でも戦に長けた氏族だったのだろうと、大和の国長、浪速津彦は推し量る。
そして特筆すべきは阿宜らと共にやってきた五頭の馬。なんと美麗な背に輝かしき夢を抱いていることかと感嘆したのも百襲姫である。浪速津彦は娘の瞳に色が躍るのを覚え、阿宜は彼女の慧眼に舌を巻いた。よもや幼子が馬を前にして臆せぬばかりか、彼らが成した馬飼らの日々を支え、大和への道程を支えたことを見抜いたのである。
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