大和 馬飼と暴君姫

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 阿宜は彼女を気に入り、一二歳の倅、()()を婿入りさせようと考えた。ところが彼女は言った。 「大和の地は大和の者で治めるべきよ。でも側室ならば、約束次第で考えるわ」 「姫様」  彼女に口を挟んだのは、熊野の長にして養父の布津。彼は姫君の気まぐれには慣れているのか、諫める声は穏やかであった。阿宜もまた官の意を得たりとばかりに話を続ける。 「では、我が倅を娶る礼をさせていただきましょう。宝をいくつか献上します」  すると百襲姫の目に影が差した。阿宜は少女(おとめ)の眼光に潜むものを見て、瞬く間に呼吸を詰まらせる。粗相をした覚えはないのに冷や汗が止まらない。隣の官すら顔を青くしている。彼は骨からの震えを抑え、どうにか言葉を紡いだ。 「姫様。何か、不都合なことがありましたか?」  そう問うと、彼女は先とは打って変わって朗らかに(わら)う。 「えぇ。わたしが欲するものが分からないの? 阿宜。あなた、鈍いのね。──お庭が欲しいの。広々としていて、馬が遊ぶことのできるお庭が。ねぇ、叶えてくれるでしょう?」
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