大和 馬飼と暴君姫

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 それから季節がいくつか巡り、牝馬たちはそれぞれ一頭ずつの仔馬を生んだ。  仔馬らはいずれも栗色で、生まれてすぐ立ち上がるほど活発だった。百襲姫は大層喜び、自ら馬丁として仔馬らの世話をする傍ら、馬術の修練にも励んだ。阿宜らは高慢な姫君の意外な一面に驚き、また彼女が子らと戯れる姿に胸を温めた。 「馬と戯れるときの姫さまはとても愛らしい。あの狼のような瞳をしているときと、まるで別人だ」  汀で馬を駆る彼女の姿を眺めながら、阿宜が呟く。彼の隣に控える布津は苦く笑った。 「我々にもあれほど優しければ良いのだがなぁ……」  官のぼやきを耳聡く聞きつけた百襲姫は、彼らの元へ駆け寄り、「何か言ったかしら?」と詰め寄る。  その顔はやはり美しく整っていたが、その眼光は凍えるように鋭かった。阿宜らは縮み上がりながらも、慌てて頭を振って否定した。それを見た百襲姫は訝しげに眉根を寄せたものの、すぐに興味を失ったようでまた馬を駆り始める。
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