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風与、百襲姫は阿宜らの背を睨めつけた。
阿宜らが振り返ると、櫓の影から細い影が覗いている。蟻のように小さな目が、こちらをじいっと見つめている。
「阿巳よ。今日は鍛冶の修練があったはずだが?」
そう言うと、影──阿巳は慌てて頭を引っ込めた。亜宜は肩を落とし、ため息をつく。
阿巳は百襲姫より五つ年上だが、元来気が弱く、また身体も小さかった。そのため少年期から虐められ、大和国でも百襲姫に振り回されっぱなしだった。
そんな彼を放っておけなかったのか、浪速津彦は彼に鍛冶を訓えるよう官らに命じていた。今日も家事に勤しんでいるはずであったが、一体何故こんなところにいるのだろうか。
「ただの休憩です、父上」
阿巳はゆっくり姿を現すが、百襲姫を恐れてか野良猫のように寄ってこない。
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