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彼女に出会ったのはこの街に越して来て間もない雨の夜だった。
その日は残業で遅くなり駅のコンビニで夕食を買いアパートへ急いでいた。
駅まで自転車通勤をしていたが朝からの雨降りのお陰で二十分程の道のりを歩いた。
アパート近くの中学校まで来るとそれまで明るかった夜道はそこから先を境に一気に暗くなる。
僕は校門にある街灯に照らされた雨に濡れた狭い舗道を歩きながら少しだけ体温が上がって来たのを感じていた。
鉄扉で固く閉ざされた校門は誰も招き入れ無い意志を漂わせ僕は傘を低くして無意識に早足になっていた。
その校門を過ぎようとした時どこからか声がした様な気がした。
立ち止まって辺りを伺っていると、
「あの〜」
確かに声が聞こえた。
冷たい雨の中 傘を握り締めながら後ろを振り返って見ると雨に滲んだ街灯が辺りを包んでいるだけだった。
深呼吸をして改めて歩き出そうとすると、
「すみません」
今度はハッキリと鉄扉の方から声がして二十センチ程の隙間から視線を感じた。
恐る恐る近付いて行くと隙間の向こう側に誰かが佇んでいるのが見えた。
全てが違和感しかなく気付かれぬ様に呼吸すら静かに抑えた。
すぐにでも走り去りたかったが、逆にその隙間へ引き寄せられるように近づいていた。
校門を照らす街灯はそこに佇む人を浮かび上がらせ薄っすらと見える先には制服を着たお下げ髪の少女があどけなさを残す困り顔でこちらを見つめていた。
僕は意を決して静かに口を開いた。
「どうしたんです?
こんな遅くに...
まさか学校から出れなくなった訳じゃないよね・・・」
僕はつまらない事を聞いてしまったと後悔した。
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