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「お腹がすいたの... 何でもいいから食べ物をくれないかな」 その少女は馴れ馴れしい口調で言った。 「それより... 家に帰った方がいいと思うよ こんな寒い雨の中にいたら風邪引くよ それにもうこんな時間だし...」 僕は21:00を示した腕時計の液晶を見せた。 するとその少女は時計を見ると、 「へえ~そんな時計もあるんだ 初めて見た...」 不思議そうな顔で頭を傾けた。 僕は意味が分からなかったがとにかく早くここを立ち去りたかった。 何せ身体は冷えてくるし僕だって腹ペコなのだ。 「とにかく... 帰ろうよ 家まで送ってあげてもいいし・・・」 「迎えが来ないの...」 「電話とかした? 連絡とれない?」 「うん それより手にぶら下げているのは何? さっきからいい匂いがするんだけど...」 その少女はちょっとだけ微笑んだ。 「僕の夕食」 「へえ~」 少女は僕の顔を見据えた。 暫く沈黙が辺りを支配した。 「分かった 分かったよ 譲るよ」 ボクはコーヒーだけ取出してパスタとサラダを袋ごと渡した。 「嬉しい ありがとう」 「あのさぁ 一つだけ約束してくれる? 君が家に着いたらここに連絡してくれる やっぱ心配だからさ」 僕は携帯番号を書いたメモと傘を渡した。 「ありがとう 連絡するから」 僕達は鉄扉の隙間越しに奇妙な会話と約束をした。 僕は少女の事が気になりながらもその隙間から見える嬉しそうな顔で小さく手を振る姿を見ながら歩き出すといつの間にか冷たい雨が止んでいるのに気が付いた。 僕は思わず振り返ると街灯に照らされた舗道を歩く少女の後ろ姿を見た気がした。 その夜 食欲は失せその少女から連絡もなかった。
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