<31・Psychopath>

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 その少女をぐるりと取り囲むようにして、二人の少年と二人の男が横たえた体で円を作らされていた。二人は学園の制服を着ている。一人はまだ幼いようなので、初等部の子供なのかもしれない。残る二人の男はやや汚れたツナギのようなものを着ているところから、どこかの浮浪者か誰かを拉致してきたのかもしれなかった。  彼らの恐ろしいところは――横になった状態の体が、縦で真っ二つになっているということ。そう、頭から、股間まで、真っ直ぐに切り裂かれて半分の体にされてしまっているのである。にも関わらず、全員が血の海の中で生きていた。ぶるぶる、ぶるぶるとおぞましい苦痛に体を痙攣させながら。 「これは、悪魔の世界と繋がるための魔方陣なんですの。悪魔を召喚するためには、まず悪魔と繋がりを作らなければいけなかったのすわ」  震えて佇むことしかできない彼方の耳元で、ジャクリーンは囁く。 「生きて、僅かに動いてくれていないと困るから……特別な魔法を使って命を繋いでいるのですわ。素晴らしいでしょう?こんな姿になっても、彼らはまだ生きているんですのよ。わたくしを馬鹿にした生徒達と、生きていても仕方ない浮浪者。わたくしの魔術の役に立てるのだから、光栄よね?」 「ふ、ふざけるなよ……!生きてても仕方ない奴なんか、この世にいるもんか!お前に、そんなこと決める資格なんて……!」 「あらあらあらあら。吐き気を堪えるだけでいっぱいいっぱいなのに、まだそんな戯言を言う余裕があるんですの?凄いですわね、彼方」  狂っている。それ以上に、なんて言えばいいのだろう。彼方はなけなしの理性で、ジャクリーンを睨みつけた。  今、はっきりと分かったのだ。彼女は、自分とは違う生き物であると。悪魔を召喚しようとしたきっかけは、悪魔の夢を見たからかもしれないが――元より彼女は選民意識が強く、目的のために人を傷つけることも平気な人間だった。このサイコパスとしか言えない気質は悪魔のせいじゃない、彼女が本来持ち合わせて生まれてきてしまったものなのだろう。  人間が持ってきてはいけないものを。彼女は不幸にも、生まれついてこの世界に持ち込んできてしまったのではないか。 「わたくしが、何で貴方に全てを話したかわかる?……学園での様子は全て、召使いたちを通じて調査してますの。貴方は、ゴミの中ではかなり優秀だわ。思い掛けない掘り出し物をしたと思ってますの。……わたくしの、一番の奴隷にして差し上げてもよろしくてよ?でも、断るなら……」 「断るに決まってるだろ!この人達を開放しろ!学園だって、悪魔なんか呼んだら何人死ぬか……!」 「もう少し考えてから喋ればいいのに」  ふう、と。ジャクリーンは呆れたように肩を竦めた。 「仕方ありませんわね。なら、貴方も生贄になってもらうまでですわ」  次の瞬間。轟々とした地鳴りが、屋敷の地下を襲ったのである。
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