<31・Psychopath>

4/4
前へ
/142ページ
次へ
 ***  地響きが収まった瞬間、ルイスはぞわりと背筋が泡立つ感覚を覚えた。何か、おぞましく強大なものが地面の下を這い回っているような感覚。しゃがみ込んだまま、思わず石畳の上をざらざらと手で探っていた。  その、煉瓦のすぐ下を、小さな蛆虫がぞわぞわと這い回っているような気がしてならないのだ。だが、実際は蛆虫なんて可愛いものではない。もっと得体のしれない、姿さえはっきりとわからないなにか。それが、どんどん魔力を纏って同じ方向へ集約していくのを感じるのである。 「……カナタ?」  思わず、人前でまず呼ぶことのない彼の名前を呼んでいた。顔を上げ、ロイド侯爵家の屋敷を見る。強い地震によってあちこち煉瓦や壁に罅が入ったようだが、それだけだ。しかし、地震の後から妙に屋敷の気配が空虚になった気がするのである。  うまく説明できない。ただ、とてつもなく嫌な予感がする。彼方に、何かがあったのではないかと。 「おい、ルイス!見てみろ!!」 「!?」  カレンの声に、はっとして振り返ったルイスは。学校がある方を見てぎょっとさせられることになるのである。  学校の塀や、建物の影から。黒い植物のようなものが、ずるずると伸びてきている。それらは禍々しい闇属性の魔力を纏い、どんどんと力を学校へ集めているように見えた。 「まさか」  信じたくない。だが、それでも過去に本で読んだ、あるいは授業でやった内容を思い出すには充分だったのである。  かつて、この世界に大きな災厄を齎し、街一つ消し飛ばしたという悪魔――アルバトロ。まさか、本当に。 「まだ、召喚までの猶予はあると思っていたんだがな。魔方陣は完全じゃなかったはずだが」  ちっ、とカレンは舌打ちして言った。 「急ぐぞ、ルイス!完全に悪魔が召喚されたら終わりだ!」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加