<32・Birthday>

2/4
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ
「生命力、は魔力とは似て異なるもの。魔法使いでない人間であっても全てが持ち得るものですわ。貴方は魔力はスカスカだけど、生命力には充分すぎるほど溢れている様子。悪魔にとっては、充分なほどご馳走でしょう。その生命力を餌に、悪魔を呼び寄せて使役しようというわけ。……ふふふ、わたくしはこの世で初めて、悪魔を使いこなした最強の魔女となるの。今までわたくしを馬鹿にしてきた全てのゴミどもが、わたくしにひれ伏す世の中になるのですわ……!」  酔いしれるように謳うジャクリーン。冗談じゃねえ、と彼方は歯を喰いしばった。大量殺戮兵器の餌にされて死ぬなんざまっぴらごめんである。なんとかして、この状況を打破する方法はないものだろうか。 「ジャクリーンさん!!」 「!!」  聞き覚えのある声がした。見れば、リンジーが校舎の中から飛び出してくる。そして、戸惑ったように“二人のジャクリーン”を見ていた。  ああ、最悪のタイミングで――そう思ったのは一瞬である。確かに、前々に自分の正体をきちんとリンジーに話しておかなかったのは己のミスだ。だが、今はそんなこと言っている場合じゃない。嫌われてもいいが、その件の解決は悪魔とジャクリーンをなんとかしてからにするべきだ。 「リンジー、俺のことはいいから逃げろ!こいつ、マジで悪魔を呼びだすつもりだ!」  彼方が叫んだことで、囚われている方が“自分が知っているジャクリーン”の方だと気づいたのだろう。困惑したように足を止めるリンジー。それを見て、ジャクリーンは高々と笑い声を上げた。 「ああ、そうでしたわね!お前はまだ、こいつの正体を知らなかったんですものね!ねえどんな気持ち?夏休み後から、学校に通っていたのがわたくしの替え玉で、しかも男だって知らされて!お前は偽物をジャクリーンと信じて慕っていたんですのよ、ねえどんな気持ち?」 「全部お前の差し金だろうが、ジャクリーン……!」 「確かにお前を学校に送り込んだのはわたくしですけど、元の世界に帰るために私の言いなりになったのはどこの誰であったかしら?ふふふ、こいつは異世界の一般人のサンドウ・カナタ。わたくしと同じ顔だからってすっかり騙されちゃって、貴方も可哀想にね?」  リンジーの顔色が、みるみる青ざめていく。なんでこいつは、平然と人を騙して傷つけるようなことを言えるのか。彼方は歯を食いしばる。  全部、自分のせいだ。  自分が、最初の日にこいつの頼みなんかを聴かなければ。せめて、リンジーにももっと早く本当のことを話していれば! 「リンジー……ごめん。ずっと、ウソついててごめん。俺、本当はジャクリーンじゃないし、この世界の人間でもないし、男なんだ」  まるで、心臓をきりきりと締め上げられるよう。苦痛に拳を握りしめながら、リンジーに向かって叫ぶ。 「俺のことを嫌いになってくれたならそれでいい!どっちにしろ、さっさとここから逃げてくれ!自分のことは、自分でなんとかするから!」 「か……カナタ、さん……」  真っ青になって固まっているリンジーの後ろから、走ってくる者達が見えた。どうやら、ルイスとカレンが屋敷の近くから全力疾走して戻ってきてくれたらしい。  夕焼けの空が、どんどん黒く淀んだ雲で覆われていく。ついには渦を巻き、ゴロゴロと雷の音を響かせ始めた。さながら、悪魔の召喚を祝うように。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!