<32・Birthday>

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 ***  よりにもよってこのタイミングかよ、と思うしかなかった。息を切らして学校に戻った瞬間、見えたのはグラウンドの中央に聳える真っ黒な大樹と、それに体の半分を飲みこまれた状態になっている彼方。その隣で、にやにやと笑っているジャクリーン。そして、それらを呆然と見ているリンジーの姿であったのだから。 「リンジー!」 「あ、る、ルイス、さん……」  リンジーが青ざめた顔で、振り返る。 「じゃ、ジャクリーンさんが、偽物で……男で、異世界人だって言われて、それで……何がなんだか。る、ルイスさんは、知ってたんですか?」  もっと早くバラしておけばよかった、なんていうのは結果論だ。自分達の誰もが、こんなに早く状況が動くだなんて予想していなかったのだから。  リンジーの動揺も当然だし、それこそ怒りが自分や彼方に向いてもおかしくはない。わかっていたが、今はそれを詳しく説明して説得していられる状況でもないのだ。 「あとで、全部話す。お前の誹りは後で全部受けるから、今は堪えてくれ。まずは悪魔の召喚を止めることだ。それから偽ジャクリーン……カナタのことも俺様は助けたい。あの状態で、魔方陣の中心にくくられてるともなれば、嫌な予感しかしねえ。リンジー、何か知らないか!?」  知識に関しては、やはりリンジーの右に出る者はいない。少年は動揺した目でそれでもどうにか絞り出すように“さっき”と口を開いた。 「あの本物のジャクリーンさん?が……悪魔を呼ぶための生贄だと言っていました。カナタさんの生命エネルギーを餌に、悪魔を召喚するのだと」 「アルバトロって、そういう方法で呼びだすもんなのか?」 「基本的に、悪魔は気まぐれな生物だとされているんです。そもそも、地球人とは根本的な力量や“格”が違うから、いくら魔方陣をセッティングしてきちんと手順を踏んで召喚しようとしても来ない時は来ないらしくて。だから、悪魔が来たくなるような餌を用意したらしい……って、僅かに残っている記録にはあったと。実際、他の召喚魔法でも似たような方法はありますから、間違ってないかと。大抵、ネズミとか猿とかを使うので、人間を使うなんて例は聞いたことがないんですが……」 「ちっ……ろくなことにならないのは間違いないらしいな」  あのまま悪魔が召喚されたら、真っ先にカナタが絶命しそうだ。本人は必死で逃れようともがいているが、黒い幹にしっかり固定されてしまっているのかうまくいっていないらしい。 「る、ルイス!お前ら、もういいから遠くに逃げろ!こいつは俺がなんとかするから……!」  彼方が向こうで叫んでいるが、無視だ。この期に及んで、自分達だけ逃げるなどあり得ない。彼を真正面から睨みつけ、ルイスは叫ぶ。 「お前は俺様が、必ず助けてやる。今更一人で何もかも背負おうとしてんじゃねえ。姫を見捨てて逃げる騎士がどこにいるってんだ!」 「正論だな」  すぐ傍で、カレンが頷いた。
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