<1・Hero>

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 ***  人助けが得意といっても、大したことをするわけじゃない。精々今回みたいに不良をちょっとこらしめたり、落とし物を積極的に拾ったりということくらいである。そして、それも善意100%なわけではない。元々は、己の顔と身長というコンプレックスを覆すために始めたことだった。  女の子みたい、とからかわれることが多かった彼方は(しかも妹がほしかった両親と姉の意向で、髪を切らせて貰えないという状態。どうにか結ぶことは許してもらったが)昔から自分と真逆の存在に憧れる傾向が強かった。つまり、戦隊ヒーローである。己も、彼等のように拳や剣でバンバン敵をぶっとばして誰かに感謝されてみたい。男らしく敵と戦える存在になりたい、と。  しかし、残念ながら華奢な体格が災いして格闘技系の稽古ではちっとも芽が出ず。脚力だけは人並み以上にあったので、とにかく足だけは鍛えまくって今に至るというわけである。同時に、せめてやることだけでもヒーローらしくありたい、とお節介を繰り返すようになったという流れもあるのだった。  これが、思いがけず功を奏することになるのである。お節介だと嫌がられることもあったが、大抵の人は彼方が助けると喜んでくれるし感謝してくれる。特に、不良をとっちめることと落とし物や忘れ物を探すということをして感謝されたことは数知れず。誰かに“ありがとう”と言って貰える、それは彼方の自己肯定感を上げるのに充分であったのだ。  自己満足であってもいい。己のエゴと言われても構わない。良い事をして、誰かが嬉しくて、自分も幸せになれるならまさにWin-Winだ。  彼方が一年生の少年をカツアゲから助けたのも、まさにそういう理由。同時に、三年生で部長でありながら、積極的に道具を片づけるのも。 「あ、先輩いいですよ、持ちますよ!」 「いいっていいって!これくらいなら俺だって運べるし」  放課後の部活終わり。二年生の少年にひらひらと手を振って、彼方はハードルを持ち上げた。一つ一つ回収しながら、今日の練習のことを考える。  助けた少年は、本当に今日も仮入部に来てくれていた。文系そうな見た目だったが、走るフォームも悪くなかったし、入部してくれたら戦力になるかもしれない。何より、やる気のある部員はそれだけで大歓迎だ。 ――昨日来てたあいつと、その友達のあいつ。それから……あいつも結構筋が良さそうだったな。ウチに来てくれるといいんだけど。  何人か頭の中で目星をつけつつ、体育倉庫にハードルを運び入れたその時だった。 「ん?」  ふと、倉庫の奥。跳び箱の裏あたりから、紫色の光が漏れ出していることに気づいたのである。 「なんだ?」  何か、ライトでも置いてあるのだろうか。なんとも綺麗で、気持ちの良い光だ。誘われるように、そろりそろりとそちらに向かって歩いていく彼方。  ひょい、と裏側を覗きこんだ、その瞬間だった。 「へ」  ぐい、と全身を強く引っ張られるような感覚。さながら、見えない手に体中をわしづかみにでもされたかのような。 「な、な、何、なんっ」  悲鳴は、真っ暗になる景色の中に飲み込まれていった。彼方が最後に見たものは、跳び箱の裏のスペースが紫色の輝かせる――奇妙な魔法陣であったのである。
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