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<2・Teleport>
「あっで!?」
彼方が思いきり投げ出されたその場所は、どうやら芝生の上であるらしかった。背中がなんだかちくちくする。もっとも、硬いコンクリートの上だったのなら怪我をしていたのかもしれないが。
目の前に、青空。一体何が起きたのかさっぱりわからなかった。体育倉庫の中、跳び箱の裏で紫色の光を見た。それがなんだか、ラノベで見そうな魔法陣の形をしていたような気がする――が、覚えているのはそこまで。突然目の前が真っ暗になったと思った瞬間、現在こうやってひっくり返り青天を晒している状態である。
綺麗な空だなあ、とどこか暢気に思った。多分、半分は現実逃避だ。
「やっと成功しましたわ!」
「!?」
すぐ近くで、艶やかな女性の声が聞こえた。なんだ、と思った瞬間、黒い影が顔の上に落ちてくる。
顔を思いきり覗きこまれたのだと気づいた。しかし、逆光になっているので、すぐに相手の顔がわからない。どうやら女性らしいこと、長い髪の持ち主であるらしいこと、はわかるのだが。
「あら、本当にわたくしそっくりの顔だわ。……あら?貴方、ひょっとして……」
そして彼女は。失礼にもぺたぺたと彼方の胸を触ってきたのだった。いくら男の身とはいえ羞恥心はある。ましてや、相手の意図がなんとなくわかったから尚更だ。彼方は怒りのまま“触んじゃねえよ!”と上半身を起こすと同時に相手を振り払った。
「おい、誰だよお前!失礼、つーかセクハラだぞセクハラ!」
相手が勢い余って尻もちをついた。ふわり、とピンク色のスカートが揺れる。ドレスみたいだな、と思って相手の顔を見た直後――彼方は完全に固まることになったのだった。
「ちょっと、何するんですの!」
長いウェーブした栗色の髪。
紫色の大きな瞳。
髪型と性別こそ違うが、その女の顔はまさしく。
「お……俺ぇ!?」
いかにも、悪役令嬢モノに出てきそうなピンクのドレスのお嬢様は。
彼方と、まったく同じ顔をしていたのだった。
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