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「これは予想外ですわね……」
そのお嬢様は、驚いたように首を傾げていた。
「確かに、わたくしの身代わりができるくらい、わたくしそっくりの人物をよこしなさいと精霊に命じたのは事実。実際、貴方はわたくしと同じくとても美しい顔をしているけれど……まさか、男性が呼ばれてくるなんて思いませんでしたわ」
「ごめんちょっと何言ってるのかわからない」
「だから!わたくしが、貴方をこの世界に召喚しましたのよ。わたくしの身代わりをしてもらうためにね。理解しました?」
「……理解したくないデス」
もしやこれは、ラノベあるあるの“異世界転移”というやつなのか。 彼方は頭を抱えるしかなかった。正直信じたくない。こういうものは普通、現世に絶望して、現世の自分を捨てて異世界でヒャッホーしたい奴が呼ばれるものではないのか。すごいいじめっ子だとか、ブラック企業だとかで現世に未練がないヤツが。
彼方はそうではない。部活の片づけのあとは、部長として監督やコーチとミーティング予定だった。自分がいなかったら確実にみんなを困らせてしまう。将来有望そうな一年生の名前も伝えてないし、リレーの団体メンバーに推薦したい二年生のことも話せてない。それからトレーニングメニューも変えたいと言おうと思ったのにそれもできなかった。
もっと言えば、今日は待ちに待ったテレビアニメ“チェイン・ルーサーズ”の第二期の第一話が始まる日だったのだ。リアルタイムで見るため、なんとしてでも八時にはテレビの前で待機していたかった。録画もしてあるがそれはそれ、ソッコーで見て友人達と喜びを分かち合いたかったというのに。
――あーこれは夢、きっと夢、夢に決まっている、夢に違いない。ていうか夢じゃないと困るんだよこんちくしょおおおおお!
頭を抱えて呻く彼方を、少女は呆れたように見下ろす。
「いつまでそこで悶えてるんですの?貴方も男ならシャンとなさいな!」
「いや、誰のせいだと思ってんの、ねえ!?」
「誰のせいも何も、絶世の美姫と名高いこのロイド侯爵家の跡取り娘、ジャクリーン・ロイド様に召喚してもらえたのよ?光栄に思いなさいな!」
「俺と同じ顔の女なんかありがたくもなんともねえよ!つか、お前そういう性格かよ!」
なんて横柄な。人の事情も知らずに無理やり召喚しておいて、ごめんなさいの一言もなしなのか。段々と腹が立ってくる。なんで、自分がこんな目に遭わなければいけないのか。
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