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彼方はまだぐらぐらするこめかみを抑えながら立ち上がり、周囲を見回した。どうやら、ここはどこかのお屋敷の庭であるらしい。ぐるりと三方を塀で囲まれ、正面には青くピカピカと光る三角屋根の館が見える。あちこちに青々と葉が茂る木々が立ち並び、その隙間からは噴水らしきものも見えた。侯爵家と言えば、貴族の中でも相当上位の身分のはず。なるほど、お金持ちの家であるのは間違いないらしい。自分が今立っているのは芝生だが、噴水の方は立派な石畳になっているようだった。
そして、目の前に立つジャクリーンとかいうお嬢様の足元には、紫色の魔法陣。――間違いない、彼方があの体育倉庫で見かけた魔法陣はアレだったのだ。
自分はそんなやばいものにうっかり近づいてしまったというのか。あるいは、そもそも自分が、この女のせいでそれに引寄せられたのか。ああ、なんて厄日なんだろう。
まあ、次の瞬間はっと目が覚めて、自分が己の部屋のベッドで眠っていました、というオチなら許さないこともないが。そう、これが本当に夢であってくれたらどれほどいいか。
「あら、逃げる段取りでも考えてますの?」
ジャクリーンは、嘲るような笑みを浮かべて言う。
「残念ですけど、逃げられませんことよ。この屋敷は、厳重に警備されてますの。わたくしが一言命じれば、警備兵が即座に駆けつけますわ。わたくしが用意したお客様用の寝室ではなく、冷たい地下牢にどうしても行きたいというのなら無理に止めませんけど」
「お前、性格悪いって言われね?」
「失礼しちゃうわ、わたくしほど完璧な侯爵家令嬢はいませんのに!」
いや、どう見たってあんたヒロインじゃなくて悪役令嬢じゃん、とは心の中だけで。そう言ったって、この女に通じる気がしない。
「わたくしは親切ですから、今から丁寧に貴方の状況を説明して差し上げますわ。感謝しなさい!」
どこまでも上から目線の女は、半ばふんぞり返りながら彼方に説明してくれた。
いわく。
彼女は、偉大なる魔女の一族の跡取り娘であるとのこと。
ただし、一族に一人前の魔女として認められるためには、中等部の卒業試験を優秀な成績でクリアして卒業しなければならないということ。
そのためには、学校のルールに則って“姫に仕える騎士”を集めなければならないということ。
が、騎士集めなんてタルい真似をするのがめちゃくちゃ面倒――というか苦手なので、自分の代わりに通学して騎士集めをしてくれる人間を探していたのだということ。
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