実家

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実家

次の日曜日優子は向井工事の車で母の京子の実家に向かった。 優子にとって初めて行く母親の実家だった。 優子は母親から自分の実家の話を一度も聞いた事がなかった。 優子もまた母親に聞いてはいけないものだと子供の頃からなんとなく思っていた。 車はどんどん山の方に向かっていた。ずいぶん自然が豊かな所なんだな~そう思っていると車が止まった。優子の僚を出てから車で三時間結構な距離だった。 「着きましたよ。ここです」優子は始めてみる母の実家のあまりにも大きな家に驚いていた。 向井が預かっていた鍵で優子は玄関の扉を開けた。一番先に優子の視界に入ったのはアルバムだった。「アルバム?」優子は家の中に入るとアルバムを見た「これって?この写真って?お母さん……」 向井は言った「そうです。お母さんは優子さんの居所がわかるとこっそり優子さんの後ろから優子さんを見ていたのです。それを優子さんに気付かれないように探偵さんに頼んで写真を撮ってもらっていたのです。京子さまも小さく映るようにと、どうしても娘と一緒に写真に収まりたいと……」優子の目から大粒の涙が流れていた。 その写真は仕事が終わり職場でできた友達と一緒にスーパー銭湯に行く為、僚の外で友人達とお喋りをしていた写真だった。優子は友人達と楽しくお喋りをして笑っている所だった。その優子のずっと後ろの方でこっそり京子は見ていた写真だった。 そんな似たような写真が何枚もアルバムに貼ってあった。 向井は言った。「優子様の事を京子様は大切に思っていたんですよ。いつも私は優子様のご様子を京子様に伝えていました。この家と土地どうしますか?片づけは少しずつ片付けてもらわないと売ることもできませんので」向井は優子にそう言った。そして 話を続けた「あと、これなんですが~」向井は優子に優子名義の通帳と印鑑を渡した。優子は驚いて「これは?」と尋ねた。 向井は言った「お母様が実家に戻られたのは優子さまに少しでもお金を残す事が目的でした。 自分の父親の会社を手伝って給料をもらって優子様名義の通帳を作って貯金をしていたのです」 優子名義の貯金通帳の残高は三百万円になっていた。「優子様~お母様は癌だということを隠して自分のお父様の会社で働いていたのです。さっきの写真も相当苦しかったはずです。優子様もお分かりになったと思いますが、優子様の僚からここまで車で三時間掛かります。病気のお母様には相当堪えたはずです」 優子は言葉を失った。 しばらくすると「わかりました。会社を少し休んで片付けに来ます。こちらからまた電話を掛けますので」優子は向井にそう話した。 その時、一枚の写真が優子の頭上に落ちてきた。 優子はその写真を見て驚いた。 それは母親の京子が優子を抱いて笑っていた。その隣には優子が初めて見る父親の姿だった。 「みんな笑っている」優子は写真の裏を見た。 1991年3月29日葛城優子と命名 母京子 父強と 書いてあった。「これがお父さん~」 優子は向井に言った。「遺産相続はしません、私はこの写真一枚あれば充分です。こちらの私名義の通帳は母親が病気を隠して働いたお金ですので大切に本当に困ったときに使います。後は全て処分してください」そう言って、また自宅の鍵を京子が一番信頼している向井に預けた。 僚までの向井の車の中で優子と向井は疑問に思っていた事を話した。 始めに話をしたのは優子からだった。 「向井さん。あの写真……どこから私の頭上に落ちてきたと思いますか?アルバムの棚の上から落ちたとしてもあんなにうまく私の頭上に落ちませんよね?」 向井も優子に言った「確かに~あの棚にアルバムに貼ってない写真が一枚だけあるとしてあの棚は一番下にアルバムがあるだけなのに、上からまるで誰かに導かれているように優子様の頭上に落ちましたよね?いったいどこからあの一枚の写真が落ちてきたのか?落ちてくる要素なんてありませんでしたし~」 そして向井は優子に言った。 「もしかしたら?亡くなっても優子様の事を見ているのかも知れませんね。だから一枚の写真を優子様の頭上に落としたのかも知れませんよ。優子様は愛されて生まれてきたとお母様が優子様に知らせる為に」 優子は「そうですね。きっと天国から私との思い出の写真を一枚落としたんですね。母は私にいつまでも見守っていると伝えたかったのかもしれません」 「だとしたら、お母様はなかなか粋なことをしますね天国から思い出を落とすなんて」 二人は車の中で笑っていた。 あの一枚の写真が上から落ちてくるような要素がまるでないあの家でどこから落ちてきたのだろか? はっきりしたことは向井にも優子にもわからなかった。 優子はきっとこの一枚の写真はお母さんが自分にずっと持っていてほしいと願って私に渡したのだ。 優子はその写真を母親の形見にしようと決めていた           完
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