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ファーストラブ
「葵、起きて。朝だよ」
「んぅ〜…、」
6時50分。
寝室に向かい、ダブルベッドの端っこで丸まって眠る恋人の体をゆらゆらと揺する。
「ほら、起きて。遅刻するぞ」
毛布を剥ぎ取り体を仰向けにさせると、「まだねむい〜…」と言いながらもこちらに両手を伸ばしてきた。
「…しゅーくん、だっこ…」
「…もう、ほら。起きろって」
伸ばされた腕をとって抱き起こしてやると、葵の腕が背中に回ってぎゅうっと力が込められる。
「秀くん、あったかい」
「はいはい、ほら、起きて」
ぽんぽんと背中を叩いても、葵は「んん〜…」と唸りながらいやいやと首を振る。…ほんと、手のかかる子だ。
まだぎゅっと抱きついたままの葵を無理やり立たせ、「もう〜…」と言いながら手を繋いで洗面所まで連れて行く。
「はい、顔洗って?」
「…ん、」
鏡の前に立たせ、蛇口を捻ってザーッと水を流してやれば、ようやく葵は「ふぁ〜起きたぁ」と伸びをして、バシャバシャと顔を洗った。
「タオル置いとくから。ちゃんと拭いてね」
「はぁい」
葵はめっぽう、朝に弱い。
一緒に暮らし始める前、葵のお母さんに「この子、ほんとに朝起きないと思うけど…、がんばってね?」と言われていたけど、まさかここまでとは。
でも大学に遅刻されても困るし、同棲を始めてまもなく1年になろうとしているのに、こうして毎日甲斐甲斐しく世話をしてやるんだから、惚れた弱みとは怖いものだ。
俺と葵は10個年が離れている。
もちろん葵が10個下。
だからと言って甘やかしすぎかもしれないけど、どんなにだらしないところも、それが葵ならなんだって可愛く思えてしてまうのだから仕方ない。
朝ごはんの準備をしながらお母さんとお父さんも大変だったろうなぁ…と思いを馳せて、同棲の了承を得るためにご両親に会いに行った日のことを思い出していた。
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