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「葵。こっち向いて」
「っ...あ、...しゅ、っ...くんっ...んん、」
振り向いた葵の唇を荒々しく奪う。
しっとりと濡れた葵の髪に手を差し込んで、ぐっと引き寄せて、唇を啄みながらだんだんと重なりを深くしていく。
これじゃあまるで、葵のことを食べているみたいだ。
お母さんから聞いていた話と、今葵が俺に聞いたこと。きっと葵は子どもの頃、「うざい」「きもい」「空気が読めない」そんな言葉を、学校でかけられていたんだろう。もしかしたらもっと酷いことをされていたかもしれない。
そして今日、店まで来ていたあいつが、その中のひとりだった、んだと思う。
「俺は、葵のことが大好きだよ」
「秀くん…」
「俺は絶対に、葵のことを傷付けたり、嫌いになったりしないから。…だから、安心して、葵は葵のままでいてよ」
こんなにも愛しくて可愛い子を、どうやって嫌いになれと言うんだろう。
「葵…」
「んっ...、...んんっ...あっ...」
もう一度唇を重ねて、葵の小さな口の中に舌をねじ込む。俺の腕を掴んでいた葵の手がぎゅっと爪を立てて、チクッとした痛みが走った。
浴室に響く荒い息遣いと、葵の艶やかな声。
背中を撫でればびくっと震える敏感な体。
俺が葵をこんなふうにしているんだと思うと、じくじくと体が熱くなる。葵を慰めなきゃとか、葵の話を聞いてやらなきゃとか。そんな考えは頭の隅に追いやられて、俺は夢中でキスをしていた。
「...んっ、...ぁ、」
「…そろそろ上がろ」
「…え…?」
「このままじゃのぼせちゃうから」
初めこそ戸惑っていた葵も、俺がゆっくりと唇を離すと、もうおしまい?と言うように寂しそうな顔をした。
「足りない?」
「…足りない。秀くんと、もっと、キスしてたい」
困ったように眉を下げて、潤んだ瞳で見つめながら、葵はそんなことを言う。本当に、俺は葵に煽られてばっかりだ。
年上として、ちょっと悔しいから。
「キスだけでいいの?」
葵の耳元でそう囁くと、葵は一瞬ぴくっと体を震わせたけど、「秀くんに、いっぱい、触ってほしい」と、ぎゅっと抱きついてきた。
仕返しのつもりで言ってやった、はずなのに。
「…ん、分かった。あとでベッドでいっぱい触ってあげる」
「…いっぱい?」
「うん、いっぱい」
そう言って髪を撫でれば、「嬉しい」と天使みたいな顔で笑うから。やっぱり葵には敵わない…と、がくっと肩の力が抜けた。
葵の話
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