さざ波は深くかみなりのように

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「で、でも……別れた次の日に、新しい彼氏ってどうなの……」 「別に気にすることじゃねーだろ。今日がだめで来年ならいいってもんでもねえし」 「しかも、また部屋にきてしまった……」 「それこそ、なにも悪くねえし」  ヒマラヤの雫のアルバイトは、二人とも明日までない。  お昼ご飯は外で食べてきたけど、まだ日は高い。  これからなにしよう。 「……心配しなくても、もう遠慮しないとばかりに襲いかかったりしねえよ」 「う、うん。もしそうなったら、私も抵抗できる自信ない」 「……悪いことみたいに言うじゃん」 「だって昨夜、やばかったもん。人肌のやばさっていうか、服越しでもやばくて、あんなの……やばいよ」 「……一応言っとくが、サリがしたいんだったらおれは全然いーんだぞ」 「い、いえっ! そういうわけでは! ただ……!」 「ただ?」 「……昨日の光漣は、やばかった」 「さっきから語彙どうした」  思わず、光漣の腕のたくましさを思い出して、自分の体を抱いて身じろぎしてしまう。  それが、なにかのメッセージを(送ったつもりはないんだけど)伝えてしまったらしく、光漣がそろりと私の隣にきた。  さっき、玄関のドアは閉めてしまった。  ――襲わないって言ったじゃん。  ――襲ってねえよ。迎えに行ってるんだよ。  光漣と唇が合わさる。  長いキスだった。  口は開けなかった。光漣よりも、自分が怖かった。  ゆっくりとベッドに寝かされた。 「最後まではしない。まだな。でも、欲しい」  うん。  光漣がボタンシャツを脱いで、Tシャツになった。  私はロングスカートが膝より上にまくれないように気をつけながら、上を一枚脱ぐ。  腕と腕が、素肌で絡まった。  じかの人肌のぬくもりというのは、こんなにも暴力的だったっけというくらい、私の中の抵抗がすべてほどけて空中に消えて行ってしまう。  光漣があおむけになって、私の体を自分の上に乗せた。  まだ私を組み敷くには早いと思っているらしい。 「お、重くない?」 「軽い。……サリ」 「ん?」 「おれ、デートクラブの仕事やめるから」 「そうなの?」 「おかげさまで、あの仕事しなくてもやっていけるめどがついた。ライブハウスのほうから呼んでくれてるし、横のつながりもできたし。だからもう必要ない。そうでなくても、やめてたけど」 「……どうして?」  腰が変な動きをしないように気をつけてもじもじしていたら、光漣の胸板のあたりにあったはずの私の顔が、いつの間にか彼の真上にきていた。 「どう考えても、彼女持ちがする仕事じゃねえよ」  私のほうから、光漣にキスをした。  下にいる光漣の体が、今にも私に覆いかぶさってしまいたくなっているのが、伝わってくる。  それを必死に耐えている。  その衝動も、意思も、全部がいとおしいと思う。 「光漣、好き」  赤い髪が縦に揺れた。  光漣が私を大切にしてくれている。  それなら、私も光漣を大切にしよう。  言葉にするとたわいもない夢みたいだけど、恋をし合っているなら、きっとできる。  キスが少しずつ深くなっていく。  私の抱いていた怖さも少しずつ消えて、今日は唇だけ、私たちは一つになっていった。 終
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