プロローグ

4/6
前へ
/100ページ
次へ
    (よくもまあ、人が見ている前で堂々とできるわね)  樹莉は希柚が掴もうとするタオルケットを取り上げた。小さな頃からこのタオルケットにくるまっているせいか、希柚にとってお守りのようなもの。そしてぬいぐるみより大切なものだ。このタオルケットがないと眠れない。今は保育園でお昼寝の時間はないけれど、以前はこのタオルケットを毎日持参していた。  「だーめっ」  「ねむいー」  「そんだけ笑ったら眠くないでしょ」  ほら早く起きた起きた、と樹莉は希柚を促す。希柚は「ちぇ」と小さな唇を窄めながらも渋々起きあがった。  「飲み物はどうする?」  「きょうは、フルーツジュースがいい」  「はいはい」  樹莉は希柚とリビングに戻ると、希柚が椅子に座る様子を眺めながらクロワッサンをトースターに入れる。冷蔵庫からフルーツジュースを取り出して希柚のお気に入りのコップに注いだ。フワサクのクロワッサンをお皿に乗せてテーブルに乗せる。希柚はその間にカットしたバナナを食べている。  樹莉は希柚の朝食を準備したあと、シーツを洗濯機に入れてスイッチを押した。先ほど途中で手を止めてしまった夕食の準備をしながら朝食を食べる娘に気を配る。その時ふとこの部屋が手狭になってきたことを感じた。  決して広いとは言えないが、1LDKという間取りは親子二人ぐらしにとってありがたい間取りだった。だが、10畳のリビングと、6畳の寝室に今やたくさんのもので溢れている。    毎日掃除はするし片付けもするが、朝になるととっ散らかっているし、お菓子の食べかすやゴミがそのあたりに落ちていた。どうしてこんなにも汚くなるのか、と不思議で仕方ない。その話を母にすれば「子どもだからね」と笑い飛ばされてしまった。  
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6334人が本棚に入れています
本棚に追加