Win-Winの関係

2/39
前へ
/100ページ
次へ
 『輝世堂(きせいどう)』は国内シェアNo. 1を誇る、誰もが知る化粧品業界のトップメーカーだ。国内だけでなく海外進出も積極的に行っており、世界の約100以上もの国や地域で事業を展開している。  そんな日本が誇る企業で松木樹莉(まつきじゅり)は働いていた。新卒で入社し、1年間BA(ビューティーアドバイザー)を経て広報部に異動した。それから約9年以上広報部に所属している。  そして、樹莉は輝世堂の看板だった。  スッキリとしたアーモンドアイに白い肌。その目に平行するように描かれるクールな眉。鼻先から顎のラインは美人の象徴と言われるイーラインで、女優顔負けの美貌だった。そんな樹莉をあらゆる角度から撮った写真が輝世堂のホームページに掲載されている。  新卒から入社して10年経っても尚、第一線で活躍する女性社員として樹莉が採用ページで特集を組まれていた。仕事の紹介、簡単な一週間のスケージュールなども交えて仕事に対する姿勢や思いを語っている。    そんな樹莉の仕事は、いわば調整業務が多く非常に地味だ。広報部というと前に出るイメージがあるし、実際輝世堂の広報部は美人が多い。だが、樹莉のメインタスクは男優りなものばかりだった。商品のプロモーション設計や撮影日時の調整、モデルのキャスティング、撮影の付き添いもする。ちょっと有名な芸能人を使えば、彼らの使いパシリみたいなこともした。いわば体力と忍耐の大サービスだ。  それとは打って変わって出来上がった雑誌記事の校正や誤字脱字のチェック、広報には予算があり、それを余すことなく使い切らないといけないため数字の管理もしないといけない。ちまちました作業も発生する。  取引先は広告代理店、出版社など、世間的にはキラキラしいイメージのもつ企業が多いが、彼らは一癖も二癖もある担当者が多く、非常に厄介だ。女癖や手癖も悪いと評判で、樹莉の知る同僚たちも何人も泣かされている。そのため樹莉は必要以上に関わっていない。  それに樹莉は生きてきた環境上、華やかさと無縁に生きてきた。母はホームページを見て涙を流して喜んでくれていたが、いまだにこんなふうに担ぎ上げられることに慣れていないので恥ずかしい。もちろんそれは、樹莉の自身に対する自己評価が低いせいな部分もあった。        
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6333人が本棚に入れています
本棚に追加