エピローグ

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 7月。昴が生まれ育った横浜のチャペルで二人の挙式が行われた。参加者は親族とごくわずかの友人たちのみだ。ステンドグラスから入り込む光が彼らを歓迎していた。  「汝、健やかなるときも、やめる時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も貧しい時も、妻、樹莉を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、そして命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」  お決まりの台詞である牧師の言葉に力強い声が返る。  「はい、誓います」  隣に立つ樹莉を横目で見た彼は美しく着飾った妻を見て愛しげに目を細めた。そんな新郎を見る牧師の表情も柔らかい。牧師は次に緊張した空気を醸し出している新婦に視線をやった。    「汝、健やかなるときも、やめる時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も貧しい時も、夫、昴を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、そして命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」  小さく深呼吸をして震える声を押し殺しながら「はい、誓います」と返す。その言葉を聞いた昴からホッとした様子が伝わってきた。  「それでは指輪の交換を」  牧師の言葉にチャペルの扉が開く。  膝丈の白いドレスを着た希柚が立っていた。母と同じく少し緊張した面持ちでバージンロードを歩く。両手には二人が交換する指輪を乗せたリングピローを持っている。  リングガールに扮した希柚は二人の目の前までくると「はい」とリングピローを掲げた。まずは昴が樹莉の指輪をもち薬指に通す。そして樹莉が昴の薬指に指輪を通した。希柚は十和子に呼ばれて一番前の席でその様子を嬉しそうに見守っている。  「それでは誓いのキスを」  始まりは突然だった。互いの利益が一致した結婚。  子どもは欲しいけど夫はいらない樹莉と貞操観念のある良き妻が欲しい昴。    そして昴にとってかつて恋した女性との再会。いまだに樹莉はその話をどこか信じられずにいるけれど、二人が「家族になる」と決めた日からずっと昴は樹莉を大切にしてくれている。  樹莉は膝を少し曲げて頭を下げた。昴がベールを持ち上げる。  (今度は神に誓うよ。契約書じゃなく)  聞き取れるか取れないかわからない小さな声が耳元で囁いた。その言葉に樹莉が小さく笑う。「そうね」と小さく頷けば昴が「うん」と頷いた。  樹莉の両肩に手が置かれる。覗き込んできた瞳はいつもより照れが強い。はにかんだ視線が照れくさそうに笑った。  「誓いのキスを」  甘やかな視線が交差する。緩んだ口元を引き結んであたたかい愛を受け入れた。          
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