第十五幕 深まる想愛

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「……分かりました。何なりとお申し付けを」 「ありがとう。まず、この件の収拾を頼みたいの」 「収拾……でございますか?」  問いながら、藤子がそろそろと顔を元通り上げる。 「うん。姉様も知ってると思うけど、この件で女中たちには結局二回も取り調べを受けさせたわ。一方的に疑われてかなり不愉快な思いをしてるはずだから、姉様がやったと知れたら当然、滝山辺りから相応の処罰を求められると思うの。できればそれに応じたいけど、あたしは酌量の余地があるのを知ってるから、応じるとしても軽く済ませたい。かと言って、被害者であるあたしが不問に付したいって言ってるんだから、で済む相手じゃないし……」 「皇女の名の下、ごり押しは……利かないでしょうか」  言われて一瞬、そうしようかとも思った。けれど、即座にそれを打ち消す。 「……できればそれ、もうやりたくないの。つい今さっきやっといて矛盾してると自分でも思うけど……」  立てた膝に肘を突いて、口元へ拳を当てる。 「それ、どういう意味か、訊いてもいいか」  直後、それまでそこにいなかった人物の声が掛かり、同時に次の()の境の襖が開く。 「家茂(いえもち)……」  藤子共々、慌てて立ち上がる。藤子は更に下座へ下がり、和宮(かずのみや)は家茂に上座を譲った。 「座っていいのか?」  家茂が、からかうように上座を示して問う。 「……当たり前でしょ、あんたが夫なんだから」  唇を尖らせ、上目遣いに睨むように言うと、瞬時、目を丸くした家茂がニヤリと唇の端を持ち上げる。  こういう笑い方をする時、彼は大抵碌なことを考えていない。案の定、軽く口付けられた。藤子の目があるにも関わらず、だ。 「……随分な意識改革だな」 「……うっさい、元はと言えばあんたが悪いのよ」 「はあ?」  いきなり責められた家茂は、当然の如く眉根を盛大に寄せた。 「何で俺が悪いってことになるわけ」 「だって……! だって一度目の前で死なれそうになってみなさいよ!」  口にすれば、出し抜けに涙が溢れる。
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