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「あ……」
「うっかり眠ったら、その次に俺が気付いた時にはもう死んでるんじゃないかって……どんだけ怖かったかなんて、お前は知らないだろ」
それも知らずに、ついからかったことが脳裏をよぎる。
「ごめ、」
謝罪は、彼の唇で遮られた。
長く深い、情熱的な口付けは、相手が確かに生きていることを互いに実感させる。
そう思うと離れ難くて、彼の温もりを逃すまいとするように、彼の首にしがみついた。辿々しくも彼の口付けに応え始めた和宮の頭には、すでに藤子の存在はなかった。
***
「……皮肉だよな」
ごく自然な流れで、肌を重ねたあとの余韻に浸っていると、家茂が和宮の髪の毛を弄びながらポツリとこぼす。
「……何が?」
「だってさ。有栖川宮が今回のこと仕組まなきゃ、未だに俺たちはお互いの気持ちになんて気付かなかったんだ。色々しがらみあるからな。そっちに囚われて、素直になるきっかけだって下手すりゃ掴めないままだったかも知れねぇのに」
言いながら、家茂は唇を和宮の額に押し付ける。
「……感謝しなきゃいけねぇかも、なんて、お前が元気になったから言えるけど」
「……ごめんね」
和宮は、家茂の腰に手を回した。胸元に額を押し当ると、彼の鼓動を感じる。
「もう……藤姉様の処分は家茂に任せるから」
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