第十五幕 深まる想愛

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 その藤子は、いつの間にやら姿を消していた。人払いでもしてくれたのか、未だこの休息之間(きゅうそくのま)に誰かが踏み入ってくる気配もない。 「……いいのか」  確認するところを見ると、藤子との話を聞いていたのだろう。ただ、どこから聞いていたのかは分からない。  けれども、彼のほうが恐ろしい思いをしたのは確かだ。立場が逆なら、和宮(かずのみや)だってきっと、彼が正気に返るまで気が気でなかったに違いない。だから。 「……うん。陥れられ掛けたのも家茂(いえもち)だし。いいようにして」  彼の腰に回した手に力を込めて、胸元に頬を擦り寄せた。 「……大好き」  何の脈絡もなく、無意識にそう口に乗せる。すると瞬時、家茂が言葉を失ったように沈黙した。  そろそろと目線を上げると、真ん丸になった黒曜石と視線がぶつかる。 「……本当だよ?」 「……別に嘘だなんて思ってないけど、お前さ……」 「何よ」  答えは、言葉ではなかった。代わりに軽く唇を奪われる。 「天然?」 「は? 何が」 「誘ってるようにしか思えねぇんだけど」 「さっ……!」  瞬く()に、熱が頬に上るのが自分でも分かる。  誘ってなんかない! と返すより早く抱き締められ、今度は深く唇を塞がれた。  そのまま再度、やや強引に抱かれたのは言うまでもない。
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