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和宮が十四になった今でさえ、熾仁が自分を『妹』としてしか認識していないのも分かっている。逆の立場なら、和宮は今三つの幼子と将来結婚の約束をさせられたとしても、相手を異性と見ることはできないだろうから、それを責めることはできない。
(……でもだからって……婚儀寸前のこの仕打ちはあんまりよ)
子どもっぽくしっぺ口になりそうになるのを懸命に堪える。
「……それとも何? 十一も年下の女との結婚なんてやっぱり嫌だったわけ?」
問いを重ねる声音は、自然低くなる。
「だったら、何も婚儀寸前に破談なんて嫌らしい真似しなくたって――」
「落ち着いて。まだはっきり破談と決まったわけじゃないんだよ」
穏やかでいながら、慌てたような熾仁の弁明に、沸騰寸前だった和宮の頭は、一瞬にして冷めた。と同時に、膝立ちになっていた姿勢からそろそろと腰を落とす。
そう言われれば、熾仁は『破談になるかも知れない』と言っただけで『破談になった』と断定はしていなかった。
「……でも、そう言う話が出てるってことよね……お式は今年の冬なのに何で今更……」
半ば独白のような和宮の呟きに、熾仁はモゴモゴと口ごもっている。
「いや……それが縁談が持ち掛けられてるらしいって話なんだけど……」
言い辛そうに呟き返されて、和宮の脳内の温度は、冷めた時と同じ速度で急上昇した。
「縁談――――!? 相手は誰よ、熾仁兄様! あたしっていう婚約者がありながら……! 仮にも今上帝の妹であるあたしを袖にしようってんだから、それなりの家の子女なんでしょうねっっ!!」
半泣きになって叫びながら、一度は離した熾仁の胸倉を引っ掴み直して、ガクンガクンと揺さぶる。
「所詮兄様もそこらの貴族と同じよ! 喰い殺されるのが怖いんだわ!!」
「宮様!」
「だから、落ち付いてって! 年替えの話は本当に初めて聞いたしそれに……っ」
「……縁談があらしゃるのは、宮さんのほうや」
揺さぶられながら必死に反論を試みる熾仁の台詞の後半を引き取ったのは、よく知った、熾仁とは別の人の声だ。
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