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そもそも、『年齢が釣り合えば誰でもいい』的な論理が気に食わない。
「……それでお兄様……いえ、主上は何て……?」
そう、腹違いの兄である現帝さえ断ってくれれば、この問題はそれで片が付くはずだ。
和宮は、ワラにも縋る思いで、伯父の顔を見た。
「もちろん、有栖川宮さんとのお約束はもう十年も前からのことやし、お式の日取りも内定済みやと、斯様にお断りにならしゃいました」
ある意味、予想通りの返答に、ホッと胸をなで下ろし掛けた。けれど。
「しかし、これで果たして幕府が引き下がるかどうか……やな」
一縷の望みをあっさりくつがえすような台詞が続いて、上昇しかけた気分は元通り地に墜ちる。
発言した伯父は言うまでもなく、母、藤、熾仁や藤子の表情も一様に重い。和宮自身のそれも、似たようなものだ。
「――大丈夫……」
まるで、江戸から迫り来るかのような暗雲を払いのけたい一心で、和宮は無意識に言葉を絞り出していた。
「だって、お兄様がお断りになったんだもの。幕府だって従わないわけにはいかないはずよね……」
呟くように室内に落ちた和宮の言葉に、同意してくれる人はいなかった。
そうであって欲しいと願う気持ちは、きっと、その場にいた誰もが同じだったとは思うけれど。
(大丈夫……)
俯いて、膝に置いた手を無意識に握り締める。
一抹の不安を振り切るように、和宮は自分に言い聞かせていた。
兄帝が同意しなければ、幕府だって無理強いはできないはず。絶対に大丈夫だ、と。
***
しかし、天皇家の威を借りて何とか権威回復したい幕府は、天皇家が思う以上に必死だったらしい。
初めて破談の話を聞かされた日以上に、心なしか青い顔をした熾仁が、『その報せ』を持ってきたのは、深刻な話題とは思い切り不釣り合いな、青空の広がる昼下がりだった。
「……正式に、破談……?」
たった今熾仁に告げられた、信じられないような言葉を、唇が勝手に反芻する。自身の御座所に、弱々しい呟きが力なく落ちた。文章の意味が、うまく頭に入って来ない。
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