トーキングヘッド

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「僕はヒーロー【トーキングヘッド】正確にはヒーロー見習いだが、この業界のエース【ダイナスティ】のサイドキックとして日々経験を積んでいる。そのため、そんじょそこらのヒーロー達とは、訳が違う。 そんな僕は、酷く湿気てかび臭い、拉致監禁にはお似合いの、生まれてこの方、悪事しか生産したことがないような、これぞ正にな廃工場で、今まさに、拉致監禁されている。  椅子に乗せられ、両手を縄で縛られ、敵に囲まれている。 絶望的状況。見えない未来。来ない援軍。信じるは自分。大丈夫全部。自らの正義を奮い立たせる。袖裏に隠していた剃刀の刃を、ひっそりと取り出し、音を立てないよう慎重に、ゆっくりと切り裂いていく」 「兄貴......なんでこいつずっと喋ってんすか? なんか地の文みたいなのまで言っちゃってません?」 「こいつは重度の多弁症ってやつだ。何でも、常に何かしら喋ってないとしょうがないんだってよ。だからこいつを攫って情報を聞き出そうってことよ。取り敢えずそいつの剃刀取り上げろ」 「随分と醜悪な顔をした方の下っ端が、僕から剃刀を奪う。三分の一程も切れていない縄は、僕の細い腕では引き千切ることはできない。 頭に血が上り更に不細工になったそいつに、顔を殴られる。殴られる瞬間、顔面をベクトル方向に回して受け流したので、全く痛みはないのだが、取り敢えず痛そうにしておいた。が、口に出してしまっていたようでもう一度殴られた。今度は受け流せずに、吹き飛ばされて椅子ごと地面に叩きつけられる。 丁度窓際まで飛ばされて、一瞬だが外の様子が伺えた。口内を舐め回して負傷を確認する。少し切れただけで、特に異常はないようだ。口の負傷は僕の命に関わる」 「欲しい情報はお前の相棒に付いてだ。あいつの弱点、スキャンダル、何でもいいから教えろ」 「レディース&ジェントルメン」 「なんだって?」 「レディース&ジェントルメン!! 皆様長らくお待たせしました。今宵は私共の為お集まりいただき、大変感謝しております!! 皆様感じていますでしょうか、彼は直ぐそこまで来ています。主役は遅れてやってくるというもの! それではお後がよろしいようです」 「あの野郎もうきやがったのか!?」 「いくら何でも早すぎんだろ!!」   「もちろん嘘だ、援軍の気配なんて無い。だがダイナスティの奇襲に恐れをなし、動揺した彼らは、僕の声も姿も、気にする余裕はないようだ。即座に動き始める。目の前に扇状に広がった敵は全部で十人。確認しながら手首の関節を外し、縄を抜ける。そのまま近くの一人を縄で締め落とし、拘束されていた椅子を振りかぶり、もう一人仕留める。残り八人。非力な僕、勝機はある。狙うは急所、正中線上。一撃必殺、八撃決着。人中、顎、鳩尾、金的。残るは四人。バレる嘘。向けられる銃口、迷い無い殺意。その判断流石、僕もするか決断。奪いとっていた銃、構える先、交わる死線、銃声八発、悲鳴は四つ。これで十人。僕は自由。  フッと一息。まだ終わりじゃない。外から人の気配。次の一手で決まる勝敗。勝ち筋は少ない。だがやるしかない」  落ちている銃を搔き集め、ひたすら乱射する。窓ガラスが、機械が、銃声が、ガラクタのオーケストラが鈍色のシンフォニーを奏でる。それに導かれるように、廃倉庫の扉が重々しく開き、敵の大軍が押し寄せてきた。 「盛大にやってくれたな!! トーキングヘッド!!」 「もう諦めな。情報さえ教えれば命だけは助けてやるよ」 「敵は数十人、手には散弾銃、確実に僕を殺す算段。生き残る手段、降伏するの英断? そんなのは言語道断」 「そうかいじゃあここで死ね」 「最後に一つだけ言わせてくれ。ーーーーーーお後がよろしいようで」  エースのご到着だ。    月を呑む程の巨体、それを見た者は闘志を喪失し、巨躯に似合わぬ俊敏な動きは、逃走をも許さない。床にへばり付いた汚れの様に、只々掃除されるのを待つほか無い。淡々と遂行される正義を尻目に、独り毒づく。 「来るの遅いよ、そのせいで無駄に疲れた」  仕事を終えた相棒は、夏の太陽みたいな笑顔を浮かべながら、無言で僕に握り拳を突き出す。    「僕のパーよりデカいグーだな」    僕は憎まれ口を叩きながら、拳を合わせる。  本当に伝えたい気持ちは、一言で済む筈なのに、何故だかいつも、言葉にできない。
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