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山田一輝
村上 遥斗。
この名前を、いくつも書く度に、嫌気が差した。
ただでさえ、一ヶ月半ほどしかない夏休みの中で、何とか終わるか終わらないかの瀬戸際で、最終日には、恒例の徹夜を敢行する夏休みの宿題。
一人分でも、絶妙なバランスの量である。
それが、倍の量になったのだから、そのダメージは、誰にも計り知れない。
横で、わざわざ様子を見に来て、テレビゲームをしている遥斗に声をかける。
「遥斗、お前、ほんまに八百長とかしてへんやろな?あそこまで、お前の言う通り、ゴールが決まるとは、やっぱ考えられへん。」
それは、本心だった。
遥斗は一点目はコーナーキックからのヘディング。
二点目は、裏へ抜け出して、シュートフェイントをして、右足から左に持ち替えて、左足一閃。
三点目は、PKで、早乙女くんがゴールする。
しかも、それを後半開始から数分で、言い切った。
サッカーと野球の区別がつかない人間が。
そのため、コーナーキックを角から蹴るやつ、であったり、PKを枠の中の白いとこに置いて蹴るやつなど、想像力が必要になった。
しかし、だからこそ、説得力があった。
そして、まるで、遥斗が脚本を書いているように、間違いのない演出で、すべてのゴールが決まった。
そして、俺は約束通り、遥斗の分まで、夏休みの宿題をやる羽目になった。
「早乙女くん、前半は、全然調子良くなかったやん。あれは、後半に三点取れって、遥斗が言うたからやろ?」
「俺は、サッカーのことはよくわからんが、インターハイの決勝というやつは、三点決めようと思って決められるほど、簡単な舞台なのか?それなら、誰でも出れるだろ。」
遥斗は、いつも自分の中で、幹となる考えをしっかりと持っていた。
逆に、それに沿わない物は排除する、悪い部分もあった。
俺が質問したことに、知識がなかったとしても、自分の中にある幹の枝葉の部分で、俺の質問を一蹴する。
なぜ、俺と仲良くしてくれるのか、聞いたことがある。
その時の彼の答えは、今でも覚えている。
「世の中には、仲良くなりたいやつよりも、仲良くできねぇやつの方が多い。仲良くできねぇやつを消去していったら、遥斗が残っただけだ。」
最初は、理解できなかった。
今もできていないのかもしれない。
とてつもなく嬉しかったのを、覚えている。
でも、後になって、あれは悪口に聞こえなくもないなと思った。
面倒くさいこともあり、後から別に問い詰めもせず、初めに残った嬉しさを味わうことにした。
そういうところが、遥斗から消去されなかった要因かもしれない。
「おい、なにニヤニヤしてんだよ!数学は終わったのか?」
「は?ニヤニヤしてねぇよ!てか、遥斗の方が勉強できるんやから、俺にやらせるより早く終わるだろ。」
「宿題っていうのは、大人のエゴなんだよ。」
「どーゆー意味だよ?」
「じゃあ、逆に聞くが、宿題をやる意味はなんだ?」
「そりゃあ、一学期の復習とかだろ。勉強について行くための!」
「じゃあ、何で、夏休みだけ長くて、宿題の量が多いんだ。」
「そりゃあ、あれだよ。一学期で詰まると、二学期以降も困るから...」
「高校一年生の、しかも、一学期で詰まるやつなんて、またどっかで詰まって、ダメだろうな。」
まただ。
遥斗に口論で勝つことができた試しがない。
「はーいはい、その手の勝負は、どっかの実業家さんとやってください!」
「ふん、これだから最近の若者は。」
お前も、最近の若者だろ!という言葉は押し殺し、ずっと気になっていたことを、聞いてみる。
「遥斗は、何で、あの試合で早乙女くんが後半に三点決めて、逆転勝ちすることがわかってたん?」
「それが、なんでかわからんって言ってるんだ。」
「まさか、予言とか未来予知ってやつ?」
「なんだよ、その胡散臭いやつは。そんなんじゃねぇよ。」
「だったら、何なんだよ。さすがに、おかしいって!」
「そうだよな、おかしいよな...あ。」
遥斗にしては、珍しくボーッとしてしまったらしく、テレビには操作しているキャラクターが、敵キャラにぶつかって、ゲームオーバーになっている画面が映っている。
「遥斗。ちょっと、俺に付き合ってくれないか。」
「えぇー、なんで男のお前と、デートしないとあかんねん。で、何すんの?」
「サッカーを見にいく。」
「え?どうした。サッカーに興味が湧いたのか?」
俺が少し茶化して言ったのに対し、遥斗は真面目な顔をしている。
「いや、あの時の違和感を、確かめに行く。」
「何を確かめに行くんだ?」
「考えても見ろ。俺に、もし予知能力があるとすれば...」
「あるとすれば?」
「サッカーくじで、六億円とかもらえるだろ?」
「なんで、サッカーの知識はないくせに、宝くじの知識はあんねん。」
遥斗は、理屈っぽいところと、ガキの頃から変わらない部分の混ざり具合が、無性に魅力的な人間であった。
「でもさ、あれって、一日にある試合の結果を全部当てないと、あかんやろ?」
「え、そうなんか?」
これだから、遥斗は、遥斗なんだろうな。
無性に、心地良さを感じる。
「じゃあ、今日はやめとくわ。」
俺は笑いを堪えきれず、大笑いをした。
「真面目な顔なったと思ったら、そんなこと考えてただけかい!」
俺は、また顔を下げ、遥斗の宿題を進める。
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