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村上遥斗
「おーい、遥斗!いつまで寝てんねん!もうすぐ、会場着くぞ!」
俺の眠りを妨げるのは、いつも決まって山田だった。
それは一年生の時から、何一つ変わっていない。
俺が所属する高校の進学コースは、全部で八クラスもあるにもかかわらず、三年間、ずっと山田と同じクラスになった。
いくら、この先の試合がどうなるか、分かっている俺でも、想像できなかった。
「もう着いたのか?」
「いや、あと十分くらいかな?」
「なら、着くまで、寝かせとけよ!」
「十分なんか、誤差やん!それよりさ、いつもの試合の予言を、聞かせてくれや!」
「予言なんて、ちゃっちい言い方すんなよ。これはな、未来が見える力やねん。未来予知。」
「わかった、わかった!!とりあえず、聞かせてくれよ、な!」
このやり取りは、もう何回もした。
一年の時に、早乙女が後半に三点を取った試合。
その試合が始まる前に、映像として脳に流れたのを境に、何度かサッカーを見た。
しかし、全ての試合で、同じことが起こることはなかった。
この二年間で分かったのは、地方大会の一回戦であろうが、全国大会の決勝戦であろうが、俺が未来を見ることができるのは、早乙女が出場する試合のみ。
早乙女に関係する試合だけ、先が見える。
なんて使えない能力なんだ、と何度も思った。
山田は、名前通り、どこにでも居そうなモブキャラのくせに、他人の能力を上手く使うことには長けてる。
俺がサッカーくじの話を持ち出したあと、色々と調べてくれた。
そんなもののために、と初めは思ったが、宿題の何倍もの熱量で調べあげた報告書は、中々の代物であった。
山田の熱いプレゼンを聞いて、最終的には、山田の言う通りだと思った。
どこまで考えているのかは分からないが、山田にはそういうところがある。
自分が面白いと思ったものを、とことん愛し、そして、それを他人に共有できる、意外と切れ者だ。
山田と数億円の使い道を話しながら、その日のJリーグ全試合の対戦カードを見たが、さっぱり、未来の映像は現れなかった。
それを聞いた山田が、自分の夏休みを返せと懇願してきた。
しかし、山田は、そんな金儲けの仕方は良くないという、自らの正義感で欲望を抑えてみせた。
さすが、山田であった。
そんなこともあったなと、窓の外を見ながら思い出していると、すぐに山田が話を戻す。
「なぁ、遥斗!もったいぶんなよ。今回の試合は、どうなるんだ?」
「あのなぁ、山田。サッカーって、結果が分かってて観ても、面白いものなのか?」
「それは、こっちのセリフやわ。」
「俺は、結果が分かってようが、どのみち玉蹴りは好きじゃない。」
「...そりゃあ、結果がギリギリまで分からず、手に汗握る展開を見るのが一番楽しいけど。」
「そうか!じゃあ、今日の俺の講義はなしや!」
「えぇー!!」
「最後くらい、しっかりお前の目に焼けつけろ。お前も、このチームの一員やったんやろ?」
「いつの話をしてるんだよ。」
「一つだけ面白いこと言うたるわ。俺は、この試合で初めて、未来に介入した。」
「未来に介入した?頭でも打ったか?そろそろ、宇宙人に一度攫われたとか、言い出すんやないやろうな。」
「俺は今回、一つの実験をしてみたんや。」
「なんだよ、実験って。」
「変えられない未来なんて、見ることができても意味ないやろ?」
そう、俺は初めて、未来への介入を試みた。
早乙女と接触して、これから起こるはずの未来を変えるのだ。
早乙女が蹴ることになるPKの結果を、俺の言葉で変えてみせる。
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