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譜面をみながら、脳内でピアノの音を再生する。
つられるように右手が動いた時、お箸でつまんでいたミニトマトがポトッとお弁当の中に落ちていった。
「ほーら、また聞いてない」
もう一度ミニトマトをつかもうとした時、呆れた声が隣の席から聞こえる。
「もう、昼休みぐらい楽譜から離れてよ」
口を尖らせながら私を見つめる千枝に「あのねえ」と真っ直ぐの視線をむける。
「誰のせいでこんな面倒に巻き込まれたと思ってるのよ」
「さあ、誰でしょう」
私の問いかけに千枝はペロリと舌を出して、おどけてみせる。
「いいじゃん、涼音、ピアノ上手いんだから」
「私より上手い人が絶対他にいるじゃん!」
5月のゴールデンウィーク明け、4ヶ月後の9月に行われる合唱祭のために、クラス時間を活用して曲決めとパート決め、役割決めー指揮者とピアノ伴奏者ーが行われた。
「指揮者とピアノ伴奏者、立候補する人はいませんか?」
合唱祭委員会のクラス代表であり、議論の進行役をしていた中野さんが何度か尋ねても、例年通り一向に誰の手も挙がらない。
なかなか議論が進まないことに担任の上条先生は焦りを感じたのか、今まで教室の端っこで黙々と何か作業をしていたのに、
「おい、この時間で決めてくれよ」
急に眉間に皺を寄せて、いつもより少し低めの声と鋭い目つきーこの目つきはかなり不機嫌の時のサインー教室を見渡した。
ざわざわしていた教室に一瞬だけ静けさが訪れた後、クラスで一番のお調子者の安本が「指揮者は今年も陶山でいいんじゃねーの」と発した。
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