14人が本棚に入れています
本棚に追加
「絶対に無理!」
激しく首を左右に振る。
「どうしてー? この前も駅に置いてあるストリートピアノで弾いてくれたじゃん」
「あれは千枝が『どうしても』って言ったからでしょ!」
「泉本さん、どうですか?」
首を傾げる中野さんに「本当に弾けないです」と立ち上がりながら、真っ直ぐ彼女を見つめて答える。
「えー、涼音、ピアノ上手じゃん」
「千枝!」
「もし弾けるのなら、やってくれるととても助かるんだけど……」
期待が込められた眼差しを拒むように、もう一度私は首を左右に振る。
「私より適任者がいるはずです。ほら、えっと、あ、狭山くん! 去年伴奏していたよね!?」
「えっ……」
名指しされた彼は、こっそりと読んでいたであろう手元の文庫本から私に視線をうつした。
目が合った後、俯くと、彼は弱々しく首を振った。それはもう、「巻き込まないでくれ」と言いたそうに。
……さすがにここまで迷惑そうな顔をされると、頼めない。引き受けたくない気持ちは十分すぎるほどわかるし。
最初のコメントを投稿しよう!